神技(シンギ) 2015-12-06 05:44:43 ID:e387a492e |
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感想ありです!
小説投げときますね。
影のくぐもった路地裏。この町に蜘蛛の巣の様に張り巡らされ、分岐された道は多岐へとわたる。
老朽化したパイプより染みでた水音が響き渡り、一定のリズムを鳴らし続ける。
「この町にまだ人目の付かない場所があったなんてね。」
「いやいやどんな場所にも綻びはあるからね。人の通り、巡回の道筋、ショートカット…。まあ、そんな無数ともいえる交通の合間を見つけることはなかなか出来ないんだけどね。」
「タメになります。日々人生は学びってやつですね。いやー、これだけでも話に乗っただけはありました。」
「今回はどんな用なのかしら?私、貴方達に仕えてる訳でもないないのに動くつもりはないわ。」
路地裏を往く影が3つ。
放浪何でも屋・晴原トーヤ。
灰色の賭博師・片山秀人。
依存少女・丘元稚怜。
もともとは趣味趣向、交友関係すら無かったのだがトーヤの計らいにより今回は行動を共にしている二人。
『ちょいと二人には手伝って欲しいことがあるんだ。僕も忙しくてねえ、まあ投資だと思って割りきってよ。』とある喫茶店で切り出したトーヤ。
多少なりとも恩があった秀人と稚怜。
承諾、というよりも流される形で依頼を受諾してしまい今現在にあるのだ。
「硬いなあ、もう少し柔らかく行こうよ。そうすればもっと清廉になるのにな。」
「製錬されたところで価値があるのかしら?」
「(なんか微妙にこの二人話噛み合ってなくない?)」
「人の価値は目に見えないことが多いからね。っと、ここだよ二人とも。」
先頭を歩いていたトーヤが足を止め、それに続き二人も足を止める。
立ち止まったのはとあるビルの前。
錆び付き赤茶色に変色した鉄の扉は腐食の度が過ぎていた。ドアノブは触るだけで溢れ落ちてしまいそうな程錆び付いている。
「ここが、その銀の?」
「そう『銀の檻』。表向きは今風のオシャレな洋食店なんだけど…路地裏を通ったりして裏側に回ってくるとこんな風にもう一つの扉が現れるんだ。」
「非常ドアの一つくらい珍しくものじゃないわ。」
「ま、普通はそうなんだけど。極希に僕みたいな副職の人間が訪れるんだよ。」
廃ビルの壁にもたれ掛かり袋から取り出した缶珈琲を飲みながら一息つくトーヤ。
晴原トーヤの副職。
とある和装ネクロマンサーやサラリーマン風の男と同じいうことは秀人達も聞いているがそれ以上の情報は開示されていない。
ネクロマンサーという冒涜的な先輩を持つだけでも怪しさに拍車が掛かるのだがそこは根掘り葉掘り聞かないという契約だ。(自分は根掘り葉掘り聞いてくるのに)
「そういう人間の中に『雲狸』と呼ばれる男がいてね。まあ、なんて言うか良い趣味はしてなくて。僕らの仲間内でも問題視されていたのさ。」
「うん、り…。そう、だから私を呼んだのね。」
『雲狸』という単語に反応し顔を強張らせた稚怜を見て口の端を歪ませるトーヤ。
歯を見せて笑う、という訳ではなく口の形だけを変えた笑み。
この男が希に見せる表情だ。
「そういうこと。稚怜ちゃん、君の過去の主人というわけだ。僕としては仲間内で終わらせちゃってもいいけど君が終止符を打ちたいというなら僕はそのチャンスを与えたい訳。…別に無理強いをしたいわけじゃないから、」
言葉を最後まで紡がせなかったのは金属音だった。
シュピン。という刃物が抜き出された音が水音以外に音の存在しなかったこの場に響く。
秀人が見ると使い古されたナイフを構えた稚怜が立っていた。
「そうね。このピリオドは私が打つべきかもしれないわね。」
そうとだけ呟くと錆び付いた扉へと歩んでいく稚怜。
「ま、こうなるとは踏んでたけどね。秀人君、この前の支払いの代わりに彼女に力貸してあげてくれないかい?」
ひたすら進んでいく少女の後ろで秀人の方向を向いたまま珈琲を飲むトーヤ。
前回の依頼の報酬に異譚を寄越すように話していたのだが今回は変更があったようだ。
顎に手を当て少し考える素振りを見せると了承したように頷く秀人。
「よし交渉成立だ。一応コレ渡しておくよ。3回まで君の脚力を強化できる。」
和紙でできた符を受け取った秀人は少女の後についていく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
中は慎ましくも洋楽が流れ、優美な雰囲気が流れる食事空間。
ではなかった。
電灯は消えかけ、空気中には埃が舞い、所狭しと蜘蛛の巣が張っていた。廃墟ともいえる惨状。
その中心で一人の男が膝まずいて天に祈っていた。
黒のジャケットに何処かアジアンテイストを感じる帽子を被った長髪の男。
見ると祈りを捧げている足元には赤黒い液体で描かれた円陣があった。
「おぉ、サダメを持ちし我が主よ。業に包まれしこの現世。射抜き通すはその弦で。………あれえ?もしかして、そこに立っているのはチサトちゃんじゃないのかい?」
儀式の途中で人気を感じたのか振り向き近づいてくる男。
髪を揃えながらも侵入者の正体を気付くと足早に距離を詰め、両手を開き抱擁せんとし、
首が飛んだ。
間合いに入ったと同時に狙いを定めた凶刃が稚怜の手より放たれ、男の首を頸椎ごと切断する。
ふらつく足により支えを失った頭部は地へと墜ち、切断面の首より天井に向かって血の噴水が上がる。
「稚怜ちゃん。クスリは飲んでるみたいだね。にしてもおじさんには刺激が強すぎるよ。」
目の前で行われた行為に目眩を起こしながら苦笑を漏らす秀人。
勝負は一瞬で決した。
拍子抜けするような早さで。
「僕の勘違い、だったのかな?チサトちゃんが僕のことをオモイダシテ追って来たのかと思ったよ。置いてかれたことも忘れちゃってね。」
噴水を吹き上げながらも胴体は歩みを止めず稚怜を抱擁するとそのまま壁へと投げつける。
入り口の扉とは反対の壁へと轟音とともに打ち付けられた少女は地に伏せ痙攣したように起き上がらない。
苦笑から表情を変えられない秀人。
「(は?え、はぁ!?アイツ首が…それにあんだけ血出せば流石に…。力、え、は?)」
妖怪、あやかしの類いならまだ理解できた。
いや、元来普通の人間である秀人には理解できたとしても脳が受け付けなかったのだろう。
受け付けない。感受しない。受容しない。
立ち尽くし動けない賭博師を傍目に転がった頭を付け直し今だ痙攣している少女のもとへと向かう男。
「顔、はまずまずだったけど熟しきっていないその身を僕だけのモノにできていたと考えるとあの日々は悪くなかったよ。」
うつ伏せだった稚怜を仰向けにすると細く形の整った首を手で覆い。
男はそのまま力を入れ絞め始める。
気道を絞められ呼吸が困難となり何とか振り払おうと腕を掴むも少女は腕に力が入らない。
「そうだよ!そうだよ!!その目だよ、僕が気に入らなかったのは。神の信徒である僕を見定めるようなその目が!!ああ、でも首を飛ばされたのは予想外だったな。本当に躊躇いが無いんだね君は。心臓だったら終わっていたよ。」
目の前の光景に茫然と立ち尽くす秀人。
動かなければならないのは分かっている。それでも身体が従わない。まるで何か巨大な腕に握られたように。
「(動け!動け!!動け!!!動け!!!!)」
「大丈夫だよ。動けないのは君が小心者だからじゃない。僕の能力『手で拓けば朽ちて閉じる(ホールド・グリッパー)』のせいさ。」
眼前での行為に何も出来ない自分。
ただただ行われる惨劇に目を伏せることすらできない自分。
念じるも身体は動かず視界が赤く染まる。
少女は口を開閉するも呼吸ができず、目から滴を垂らし、
ーーー彼女に力貸してあげてくれないかい。
「動けよ!!!!」
手が熱くたぎる。
熱源はトーヤより渡された符だった。
脚力強化の霊符。だが印されたのはそれだけでは無かった。
符の裏側。そこにはもう一つの呪符が記されていた。それが意味するところは…
『拘束補食』
ある程度までの霊的拘束を打ち破るというものだ。
「そこを…………!!」
拘束が解けた秀人は脚力強化により一歩を踏み出す。
踵が地面を踏み抜くと同時に床が爆ぜた。
まるでそこにだけ超重量がかかったかのように。
そして二歩目。タイルの爆発は止まらない。
だが足りない。歩幅が増えたわけでもなく跳躍力が増したわけでもない彼の身体能力は距離を詰める事が出来ない。
まだ足りない。
だから秀人はその場で前蹴りを繰り出した。
「どけええぇぇぇ!!!!」
二回目までの踏み出しによって宙に浮いていたタイルの破片を蹴り出したのだ。
命中した上足底は一瞬で破片を砕いたが衝撃波は殺されなかった。
空気の弾丸の速度は音にも迫り今にも絞殺せんとしていた男の心の臓を撃ち抜いた。
空気の弾丸は男の身体を撃ち抜くだけでは飽きたらず内部より破裂させる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ハッハー!惨劇が懴逆になった訳かい。うん、でもこれで彼女の凝りが取れたとは限らないからね。そこは君がケアしていってあげてよ。」
コラボ小説第5弾です。
戦闘描写が書きたいなぁ、という思いで書いたのでかなり秀人さんのイメージからかけ離れてしまいました。すいません。
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