神技(シンギ) 2015-12-06 05:44:43 ID:e387a492e |
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カランカランッ
軽快な金属音が店内に鳴り響き静寂を砕く。
音の発生源はベーシックなドアに取り付けられたベルだ。
そして、そのドアより出でるは、
「やあ、いらっしゃい。狂骨君。頼まれ事のお使いはいいのかい?」
「こんにちわ静江さん。ええ、何とか一段落したんで休憩がてら寄らせていただきました。」
店内を見回し誰もいないことを確認すると笠を外す狂骨。
時刻は4時を少し過ぎたところだ。昼とも夕方とも言えない微妙な時間帯。往々にしてこういう時間は人の入りが少なくなりやすい。
だが狂骨としては願ったり叶ったりだ。
「随分とコキ使われてるみたいだね。ご注文は?」
「まあなんていうか慣れましたよ、もう。あ、お冷やでお願いします。」
「相変わらず節約家だね。こっちとしては稼ぎにならないよ」と笑いながら軽口を挟むとボトルから天然水をグラスに注ぐ静江。
「はい、お冷。それにしても珍しいわね、がしゃちゃん達はご主人と一緒?」
キリリと冷やされた水を差し出すと頬杖を突きながら質問をする。
他から見ると少々、癖が悪いようにも見えるがこれが彼女の通常運転だ。あまり気張ってもかえって疲れるだけなのだ。
「女子会だー!!らしくて僕はその間、僕はお使いです。多分、隣町の催事にでも参加してる筈です。」
「男一人だと肩身が狭そうだね。女尊男卑を地で行ってる感じかい?」
「アハハハ、まさか。僕としても恵まれてるとは思ってるので文句はありませんよ。」
グラスを仰ぐ狂骨を見ながら「そうかい。」と呟くと外を眺める静江。
なんともない日常。
学生が騒ぎながら歩き、サラリーマンが営業の為か走り、男女のカップルが人目も気にせず逢い引きをする。
なんてことはない、これがこの町だ。喧騒は止むところ知らず音に埋もれ、人という人が行き交う。
異能も怪異もあやかしも。
そんな中、窓越しにふと目に着く人物がいた。
燕尾服を着こなし紳士的な出で立ちを放つ中年男性。
「(外国人かい?この辺じゃ見ない顔だね。)」
そう思ったのも束の間。
再びカランカランという金属音を響かせながら扉が口を開く。
「いらっしゃい、何処でも好きなとこに掛けておく…」
入り口に立っていたのはサラリーマン風の男性。
この程度なら町を見渡せば100は居るだろう。
だが、静江が言葉を詰まらせたのは別の理由だった。
ーーー気味が悪い。
そのひとつが静江の喉に蓋をし、発音に壁を作っていた。
自分以外を心底棄てきっているような排他的な雰囲気。
「すまない、ホットコーヒーを貰えるか?」
男はそう注文すると狂骨の座る席から一つ飛ばし左の席に腰を下ろす。
先程までの午後の余韻は押し潰れ、倦怠感の霧が店内に漂い始める。
息が詰まりそうな圧力。
有無も言わさぬ風貌で男は胸元から手帳を取り出すと目を通しながらペンで印を付けていく。
シャッ、シャッ、シャッ、と紙が削れる音だけが店内に響く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10分か20分か。どれくらい時間が経っただろう。
インクで紙を染めるのを止めた辺りで男は声を発した。
「久しぶりだな。狂骨。お前とも長い間会っていなかったが弥菜さんは元気にしているか?」
手帳を見たまま一つ隣の狂骨に問いかけるサラリーマン風の男性。
「黙れ。僕はお前に出会ったことを酷く悔やんでいるんだ。」
怒気を孕んだ狂骨の声音。
それによって一層空気は重圧を増していく。
「なんだまだ気に病んでいるのか?馬鹿馬鹿しい。確かに俺は『大どくろ』の情報は流したがそれだけだ。他にはなにもしていない。恨むなら俺ではなく紫季村先輩を恨むんだな。」
「下衆野郎。お前が1枚噛んでたことは分かってるんだ。ホンナの事が無きゃ僕は今頃お前を生かしてなんかいない。」
「情緒を乱すな、少年。底が知れるぞ。大体、俺は1枚噛んでいたかも知れないがそれは利益に見合った商談だったんだ。お前の価値観を押し付けるな。」
「よくも抜け抜けと…!!」
「それぐらいにしときな。アンタもウチの客にちょっかいかけるんじゃないよ。」
水面下で行われていた男二人の口喧嘩に呆れた静江は間に割って入る。
カランッ、というグラスの氷が奏でる音を元に張り詰められていた空気の弦は緩みを取り戻す。
それから時間は元の動きを取り戻しかのように躍動し始める。
「邪魔をしたな。実は俺はお前に構って欲しかっただけなんだ。詫びと言ってはなんだがお前に良い医者を紹介してやる。切って貼ってができる整形医師だ。お前の半分も多少なりともマシになるだろう。」
「消えろ。」
狂骨に軽口を踏みにじられるとサラリーマン風の男はコーヒーの代金を置き、店の出口に向かっていく。
そして最後に
「そうだ、言い忘れていた。お前達が探している紫季村先輩だがな、この町にいるぞ。」
と呟き店を後にする。
続かなさそうで続きました。
舞台は再びてんてんさんの所の喫茶店です。
静江さんなんですがこんなんで大丈夫ですかね?毎回、若干不安になりながら書いているのですがわりとグダグダです。
今回は設定だけお借りしましたが『こんなん見たいよー』というのがあればサクサクとコラボさせていきます。皆さんの要望等あればよろしくお願いいたします。
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