かっぱ 2015-10-08 14:54:24 |
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___。(耳に届く声は記憶の閉じ箱の中に大事に秘めていた物ではない、本物。突然の来訪者を夢じゃなく現実と受け入れるのはそう易々といかない、意識せずとも二年前のあの日一目で恋をした端麗たる彼との日々は無駄に長い己の生涯の中で満ち足りた物だったと言う証明で。足元に這わせていた眼を上げる切欠は、良いのか悪いのか。そんな情報が届いたからでしかならず、神経がぴりぴりと鋭利な瞳孔を刻む眼で改めて向き合う様に、洗練され青く澄んで光るような美しき顔を捉え。四十になる老い耄れた窶れ面が、萎んだ風船の様な情けない身体を動かし行えることは一つだけ。埃被るショーケースの中、一つだけ磨かれた汚れ一つない学帽を洋菓子でも取り出すように手の平にのせてから差し出すこと「坊ちゃんは、之を取りに来た。……だろう」これを渡してしまえば、霞む様に胸に残り続けていた夢も潮時。繋がりが全て断ち切れてしまう、頭ではわかりながらも世間の道から逸れた奇人から出来る唯一の言い訳づくり。彼が再びここへ来た真意は分からない、気紛れかもしれないし懐かしさに花を開いてかもしれない。それでも堂々と背筋を伸ばし胸を張り真摯な物腰で言葉を選ぶ様子を見ていれば助け舟を出さずにはいられない。「学帽一つ管理できない不甲斐ない男じゃ、嫁さん守り切れねぇもんなあ」逃げているのは何からか、己には分からないがどうでも良い。片方の口角を歪と持ち上げ不器用たる笑みを作りながら「懐かしさに浸るには打って付け。此処は何も変わっちゃいない」より磨きのかかる容貌の彼は変化が全てだった事だろう、感動の挨拶は言えず仕舞いに己も含めて時の止まる書斎を一瞥し)
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