かっぱ 2015-10-08 14:54:24 |
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(半場強引に後にした屋敷を抜けて薄暗い帰路を照らす灯明には目もくれずに見つめる前方の黒に胸に残ったままの僅かな疼きに短い溜息と共に秋の夜に置いていき。次を約束した機会を安寧と見た日が訪れたのは、長期休暇を得た両親がを挨拶を兼ねて北の方へ遠出をする今日。本来ならば共に向かう筈だが気が進まず勉学を理由に数人の使用人と残る事となり。恙無い世間は変わらずガタ馬車走らせ文句を垂れ流し何気ない日常を送っているのだろう、とある一角に佇む幽霊屋敷を抜かして。あの人は今、何をしているのだろうか、こんな休日の真っただ中であっても忙しなく人が行き来する街中にはきっと訪れまい。また、あの埃とインク臭い部屋で夢日記に筆を走らせているのか。読書に更けていた筈が何時の間にか気が逸れていた事に気が付きこれ以上集中する事は不可能だと察すると、同じ作者の名が刻まれた本ばかり並べられた本棚へ返し。「新刊がそろそろ出てもおかしく無い筈なのに。遅い五月病でも訪れたのだろうか。」以前、彼の本棚の本を撫でた時と同様、指でゆっくりと本をなぞる。丁度凹凸部分に差し掛かった頃、彼は己を引き寄せ今にも折れてしまいそうな細い両腕でしっかりと抱きしめた記憶が思い起こされる。突き飛ばして否定をするという感情が生まれて来なかったのは自身でも不思議で言い表しようの無いもの。ただ、これ以上傍に居れば相手は己によって押し潰されてしまう事だろう、そんなものは分かっている。分かっているが自分勝手させているばかりではない、己もちゃっかり我儘を発揮している。そうして、大きめのボストンバックに必要最低限のものを器用に詰め込み身嗜みをしっかりと整え手の抜けた個所がない事を確認すると今度は使用人らに説明と了承を得る為、あーだこーだ適当な言葉によって言いくるめ。湧き立つ好奇心の念、そのものが身勝手な思いだと知りながらまだ日が昇り切らない朝早くから再び覚えたばかりの道程を行くのは彼も想像が付かないであろう。ボウラーハットを深々と被り、今度もベルを鳴らさず鍵の掛かっていない玄関の扉を開くと彼のいる部屋へとツカツカ進んで行き「---おはようございます先生!どうせ先生の事でしょうから夕方近くまで無駄な時間を夢の中で過ごしている事だろうと思い、今度は清々しい朝の内に来ましたが、おや先生?」大きな音を立てて開かれる扉から顔を出し締め切ったカーテン盛大に開き、くるりと身を翻してベッドの中を覗き込むなり、両手でシーツを剥ぐ大胆な行動を起こし)
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