かっぱ 2015-10-08 14:54:24 |
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(これ以上手を伸ばして近づいてしまっては後戻りが出来なくなると解るからこそ自制する為にも相手の願いを悉く断り続けていたが、結果として名残惜しさを与える様な不貞腐れる幼子の様な表情を相手が作るのだから自分が悪い事でもしている様に錯覚をしてしまう。結局はその相手を硝子越しに見るように顔を背ける事で自分の中に生まれる罪悪感を無理やりと押し込め掻き消して、開いた時と同じギイと言う古びた音を立てて相手が立ち去るまで背けた顔を戻す事は無く扉が閉まり切る音を聞くのと同時に体の力が抜ける様子でフーと長く息を吐き出して。別段緊張していたわけではないが聊か何とも形容しがたい疲れすら感じていて肩から力を抜いたまま暮れる町をボーと眺めつつ、先ほど相手をこの腕に抱いた感触を余韻のように思い返し。艶やかな黒髪は清潔感のある石鹸のようで、あれは香水も有るのだろうか、爽やかな柑橘の香りが入り混じるようでずうと嗅いでいたかったと思わせて何よりも触れている個所から広がるように自分の体までぽっぽと暖かくなるその不思議な現象は初めての事だったと思う。願うなら、ずうとこの腕の中に閉じ込めておきたいと熱を持った脳みそが正常じゃない考えを浮かばせる程に相手は魅力的な男性だったと、再び先程まで彼が居たその場所へ顔を向ける。凛と澄ました表情だけではなくあの整った顔はどんな表情を浮かべるのだろうか、その変わる表情を成長途中である証の学生帽は焦らす風に隠すのだろう。そう、あの学生帽が――「!?」記憶の中の学生帽を連想する途中で今までは無かったものがそこに有る現実に気付きガタン!と跳ね起きるように椅子から体を起こしその場に近づく「何で、」ギョと見開いたままの眼球にその学生帽を映せばそれを手に取り付いてしまった埃を指先でパッパと払う様に動かし眉を下げ八の字に。今直ぐ追いかければ間に合うかもしれないと扉を開けば今度はもう一つの置き土産、それによりこれが彼の策だと知る。癖のように頭をガシガシと引っ掻くと落ちている財布を拾って何か手掛かりはと中身を開いた所で出て来る学生所、「浪花津、千。」誰も居なくなった慣れた静寂の中その名前を呟くとその苗字が誰だって知ってる有名政治家の名字と同じだと言う事に納得をする。あぁ、どうするか。と頭を抱えたがコレが無ければ坊ちゃんは困るのだろうと言う事も重々承知で今度は不思議な気持ちを抱えている事に気が付いた。外に出る億劫な感情、それよりも今し方思い出として消そうとしていた彼に再び会えるかもしれないのだと言う現実に重湯を飲んだ時に似たポーとする感情も沸き起こる。外出用のストールを首に巻けば山高帽を目深に被り、学生帽と財布を紅葉色の布で包んで抱えてもう片方の手に黒塗りのステッキを持ちそれをズル、ズルと引き摺り外へと出て。すっかり星がチカチカと煩く輝きだした道を頼りない足取りで歩むとこれが人の多い日中じゃ無くて良かったと心底思いこの周辺では有名な大屋敷に到着して。いざ到着すると今度は如何したものかと考えが至らずに身分が違い過ぎるその場所にただ只管と圧倒されて逃げ出したい感情に駆られ、右へ左へ右往左往とウロウロするのを繰り返し。傍から見れば不審者そのものと佇まいでキリキリと胃が痛くなるのを覚え顔色を真っ青とし)
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