かっぱ 2015-10-08 14:54:24 |
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(チックタック、チックタック、秒針が狂いも無く時間を刻むのにペンは硬直したかのように文字を一つと産むことが出来ない。過去に文字を一字綴るのに頭の中身が全て溶け落ちたように伽藍の露呈をした事など一度も無い、平仮名も片仮名も単語も一つと形を成すことが無く物書きが物を書けないなんて存在証明の否定でしか無い。息が詰まる、時計の針が止まらない事が一層と焦心に駆られるだけ。皮肉な事、満たされた幸せとは唯一の存在意義を奪い去ると言うのか。ツーと背を汗が一筋垂れると暑い訳じゃない為に寒気が襲い来る、文字を綴れない恐怖が得体の知れない化物として幻覚になる。確かに楽しみ嬉々として物を書いたことは無い、それでも、それにしても、今のようにポッカリと一字一句浮上せず何も考えられない浮かれ頭とは。今、頭を叩けばカランコロンと軽い音がするに違いない、チャカポカと何も入っていない頭蓋の中では委縮し凝固した角砂糖程の脳みそがぶつかるだけだ。気分が悪い、口内はカラカラと乾ききり、いつしや文章を綴れない情けなさに、時間を刻む秒針に、追い詰められ責め立てられている。背後には論う鴉が一羽二羽ピョンピョコと飛び回りガラガラの声で莫迦にするのが現実か幻覚かもう訳が分からない。ヒュウ…ヒュウ…、気が付くと肺に穴が開いたように情けない酸素が口をつく、彼と会えなくなった期間ですらこんな事は無かったぞと焦燥感にアル中の如く指先がカタカタと細やかな震えに変わり、いつしか部屋は暗くなっていることにすら気づいていなかった。原稿は依然真白なまま、___幸せとはこうも恐ろしいとは、知らなかった。無駄に生きたこの生涯にも無知たることが有ったのだ。「……!」孤独に入り浸りイかれた頭は切っ掛け一つ、彼の言葉によりうつつに戻される。背後をバッと振り返るも、そこに鴉など一羽も存在しない、質の悪い幻覚だと生唾をゴクリと呑み込んで、机の引き出しにしまい込む少し強い錠剤が入るガラス瓶を取り出してザラザラとそれを飲み込み指先の震えが少しでも収まるのを目視して「坊ちゃん、一緒に食おうか」結局一度も走ることの無かった筆を立ててから立ち上がり扉の先へ声だけ送り、現実を直視しては眩む眼を誤魔化し背を向けまた幸せに逃げるのだ。幸せを得てはまた悪循環に至るとも気づいておりながら甘い蜜を啜らずにはいられない、弱い理性。震えの収まる手を扉に掛けて、彼が同じ空間にいるという細やかで他のきかない幸せに浸り)
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