かっぱ 2015-10-08 14:54:24 |
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(書斎に向かう彼の姿が瞳に映らなくなるまで見送る視線はフィルム内に行き場を失い煮え立った熱の篭ったもの。体格に不釣り合いな肉付きはお世辞でも褒められるものでは無い何とも貧弱な背中だが、男性特有の広い肩幅でありながら垂れる肩に押し出された肩甲骨が作る独特な溝が情欲を掻き立て色香に惑う。未だに腕に残る平たい肉体の感覚が消え失せないようにと触れ合った表面が疼き末端に血液が集中し妙に痛い。散々時間を奪い己の存在を塗り重ねたにも関わらず盃は満たされる事を知ろうとせず枯渇した皿を舐め回すばかり。所詮はまだ青臭い青年、抑揚する胸の内を安定させる術など習った事も無い。巫山戯合う若者達の様にもっとラフなスラングで想いを綴れたら、彼を楽しませる何かを出来たかもしれない。遣る瀬無い色を灯した横目で箱を見遣り、箱を開けば何処までも甘ったるい香りが待っていたと香り漂い色取り取りな洋菓子を生えらせた。ちんまりとした何とも可愛らしく煌びやかなそれぞれは箱の中で静かに踊る娘の様、厳選された娘達を彼が長蛇の列に収まり手にしたと想像すると何故だか微笑ましくクスリと小さな笑みを零し。二つ用意された林檎のショートケーキは後に二人で感動を分かち合う為に箱の中へと戻し、バターケーキに紅茶を添えて一口「______甘い。」舌の上でゆっくり溶けてゆく甘美な味わいはこれ迄口にしたもので一番上等な洋菓子に感じられた。彼が選んだこその価値だけあると一人で納得し、黙々と口に運んでは一口毎に感動を噛み締め。時はあっという間に黒く空には無数の星を飾り街に明かりが灯る頃、そろそろ原稿も黒く染まった頃だろうかと様子見に行動を起こすがもし集中に浸かり没頭している最中邪魔をしてしまったらと書斎のドアノブを捻る事は出来ず一旦台所にて夕食を作り。また暫くして明かりがぽつぽつと消えていく頃、温め直した味噌汁と煮魚、そしてお惣菜をトレーに乗せて書斎の前に訪れれば「夕飯、置いておきますよ。」と小さく一言。冷たい廊下の冷気は静けさを増しているよう、来た道を見返すも扉一つ向こう側にいる彼を思うとリビングルームに一人戻るのも落ち着かない。ならば自然と彼が現れるまで待とうと扉の横にもたれ掛かりゆっくりと腰を下ろし)
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