かっぱ 2015-10-08 14:54:24 |
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(本音を語るなれば小さな転がり一つでさえ切っ掛けに変えて彼がこの家を出て行く事を防ぎたい、叶うならば彼の事を囲いこのまま古びた幽霊屋敷と名高い我が家に閉じ込めてしまいたいのだ。外へ出る切欠を奪う対価として、己が外へ出ることなど安価過ぎる。コクリと顎を引くように頷きを見せてから「寝室の押し入れの中に布団が入っているから、好きな部屋を使って構わない」彼がいずれ此処に家出しに来ると聞いたから、浮足立つままに準備をしたのも記憶に新しい。寝るならばとそれを伝えてから外へ出る為と黒のステッキを手にして。前回の原稿を取りに来た編集が、確か人気の菓子屋が有ると言っていた。記憶を辿る様に足を進めた所で久しぶりに感じる人の賑わい、楽しそうに語りながら順番を待つ人の群れ、普段であれば絶対に近寄りもしないそれだが持って帰れば坊ちゃんはさぞや喜んでくれるだろうとの思いだけで不釣り合いな体を列して、楽しそうに話をする列とは居心地悪く時間が一分でも一秒でも早く過ぎる事ばかりを考えて、漸くと己の番が来た頃にはすっかり憔悴。角切りにした蜜漬けリンゴが入るまんじゅうや、林檎の飾りがついたバターケーキ、オススメだと語られた林檎のショートケーキは二つ、全ては喜ぶ顔が見たいが為に少しばかり買い過ぎただろうかと買ったものが入る箱を手にぶら下げてノロノロと帰路につき。時間にしてはさして長くは無いのかもしれない、それでも慣れない環境に身を置くこととはゾっとする程疲れるのだと思い知る。気の持ちようかは分からないがクラリと立ち眩むような眩暈まで襲ってくる、瞼を落とし気を失わない為と呼吸を一度、再び瞼を開くとそこには家で休ませていたはずの彼の姿が。驚くように眉を少しだけ上げれば「__もう動いて平気か」口を付いたのは彼の体調を心配するもの、来てくれたならば助かると購入品の入る紙の箱を差し出して「悪いが持ってくれ」中身が崩れてしまってはどうしたもこうしたも無いのだ、と困り眉を浮かべながら頼む様に声を掛けて)
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