ノアール狐 2015-07-12 02:11:13 |
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突然、目の前でこんなことがあれば、驚く。
周りにいた人間は全て悲鳴と共に消え失せた。
…残っているとすれば、ごく一部の野次馬だけで、少し探せばスマートフォンやらカメラやらを持った人がいくらでも見つけられる。
そうして、彼らは撮った写真や動画をインターネットへと流し、話題とする。
それは自分が撮ったんだと自慢するため、
そしてなにより、退屈な日常の中のごく僅かな娯楽の為の、餌とするために。
つまり________
「…所詮、どこまで行っても僕は、餌……」
そう。
餌
えさ
エサ
人が、話し、考え、妄想し、想像し、笑い、争い、楽しむ為の餌でしかない。
一部、報道用の資料とされ、人々に注意、警戒を呼び掛ける為に使われることもある。
けれど実際、そんなものはやはり、人々の興味を煽り、自分達の利益に変換するよう仕向けるという目的すら必ず含まれている。
つまるところ、自分の行動は、そんな奴等の絶好の餌だということだ。
「………鬱陶しい」
「イチチ……それ、自分らに言ってるんすかぁ?」
「わー酷いー」
「……別に。でも、あなた達は、鬱陶しい。」
これ以上、関わっている暇はない。
けれど、別に何か用事があるわけでもない。
しかし、それでもこんなところで餌なんてやっていたくない。
結論
…逃げる。
「あ!こら!!待つっすよー!!」
「あーあ…逃げた」
僕は別の路地裏へと続く道に逃げた。別に表でも良かったけど、それじゃ餌のまんまだ。
だから路地裏を使って別の道に出る。
後ろから追いかけてくる足音が、文句と一緒に聞こえて来る。「このチキン!」とか「それでも男っすか!!」とか「頼むから話を聞いてくれっすよー!!」とかいう声が聞こえる。
当然、無視。
表に出る頃には、足音が聞こえて来なくなった。
どうやら撒いたらしい。
……疲れた。
「撒けた、とか思ってるんすか?」
「……う?」
突然、上から声が聞こえた。
僕は反射的にその場から飛び退いた。
何かの事務所の名前らしきモノが書かれた看板の上に、撒いたと思っていた赤い服の女の人が座っていた。
「キミ、ちょっと自分ら甘く見すぎっしょ?これでも一応、『異端者』なんすけどねぇ。」
「……そんなのは、しらない。僕は別にあなたたちに何もしてない。なのに、何で追いかける?」
「そんなの簡単っすよ。自分らは、キミたち『異端者』を保護する為に各地で追っかけ回してるんすよ!」
次の瞬間、チクリ、と左腕に何かが刺さった感触がした。
腕を見ると、小さな針が刺さっていた。
さっきまで通ってきた路地裏を見ると、あの根暗そうな女の人がピースサインをしていた。
口が微かに動く。
曰く、「いぇーい」と言っているようだ。
そこまで理解したところで、視界が霞み掛かってきた。
十中八九、毒だ。
「うぁ……く……」
「ほい、おやすみさん。」
そして突然の睡魔に負け、意識は途切れた。
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