土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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そんなどん底まで堕ちた影山を助けたのは、やはりすべてを失った矢車であった。
「影山、いい顔になったな。俺はといっしょに地獄に堕ちるか?」
「これ以上の地獄がどこにあるというのさ?」
「俺の弟になれ」
矢車はそう言ってホッパーゼクターを影山にポイと投げつけた。
「……あんただけだ、俺に振り向いてくれたのは」
影山は矢車に感謝した。
「二人で歩いてゆこう。ゴールのない暗闇の中を」
こうして影山は矢車を「兄貴」と呼ぶようになり、キックホッパーと同じく第三勢力のライダー、パンチホッパーとなったのだ。
ZECTにとってもひたすら迷惑な存在となった矢車のキックホッパーと影山のパンチホッパー……二人はいつしか『地獄の兄弟』と呼ばれるようになった。
それでもパンチホッパーとして再びライダーの力を手に入れた影山にはワームを倒したいという気持ちが芽生えもしたが、矢車はそんな影山にこう吐き捨てた。
「いいよなおまえは、正義の味方の燃えカスがあって……そんなもん、ウジ虫にでも食わせてしまえよ……ああ、生きているってむなしいよな……どうせ俺なんか……」
あくまでも光を求めない矢車の態度に影山も光を求めることをやめた。
(略)
北欧行きのタンカーが、月光を反射して波模様を作る大きな海を切り裂くように進んでいた。
夜の海原はすべての音を吸い尽くしたように静かだった。
柔らかな月光を浴びたタンカーの一角に密航者の影があった。
淡い月光さえ届かない暗闇の壁にもたれて、矢車が座り込んでいた。
矢車の腕には影山が抱かれていた。
「相棒、俺たちは永遠にいっしょだ」
しかし矢車には頬を寄せるように俯いたままの影山は瞳を閉じて動かない。
「行こう、俺たちだけの光を掴みに……」
影山は返事をしない。
「けっして輝かない闇にまみれた光を掴みに……なあ、相棒」
影山は息をしていなかった。
矢車の瞳から涙がこぼれ落ちた。
その血の涙は月光を反射してどす黒く光った。
それこそが二人が掴もうとしていた闇の光なのかもしれなかった。
米村正二『仮面ライダーカブト』決戦!2 本文 仮面ライダーキックホッパー(矢車想)仮面ライダーパンチホッパー(影山瞬) より
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