土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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「子供のころ、まだ物心ついて間もないときに、父親は俺の目の前で死んだ……」
炎が舞いあがる武家屋敷の一室、身体中を矢に貫かれた丈瑠の父親は、棒立ちの息子に向かい自分の代わりに闘え、今日からおまえがシンケンレッドだと言い残し、この世を去った。手渡された折神の意味もわかんないその息子へ、すべてを託して父は死んだ。
「でもその当時、俺はまだ死の意味がはっきりわかってなかったんだと思う。死というものがどういうことなのか、まるで理解していなかったんだ」
「……今は、どうなんですか?」
丈瑠は俯く。西村は答えが戻ってくるのをじっと待っている。しばしの間。
「あれ以来、俺はずっと孤独だった……人との繋がりを避け、壁を作り、一定の距離を保ち生きてきた……人との繋がりを持てば、それは弱さになる。自分に近づけば、それだけその人が危険に晒される。だから……それが俺の生き方だった……」
「…………」丈瑠の言葉が過去形だったことに、西村は安堵の思いだった。それはつまり、今は違うと言っているのが同意だからだ。
「だから、俺にはわからない。身近な人間が突然いなくなるなんて経験を、したことがないから……」
「その言葉を聞けて、少しほっとしましたよ……」
「…………」意味が分からないので西村を見やる丈瑠。
「あなたは強い……とてもね。そして、その強さに裏打ちされているのは深い思いやり……つまり優しさです」
「なぜ、そう言いきれるんだ?俺はただの、人付き合いの悪い殿様だ」
「口にしなくてもわかりますよ。なにせ私は精神科医ですからね。あなたにたとえ近しい人を失った経験がなかったとしても、あなたは今現在これだけ心痛めている……自らを責め、その責任を必要以上に感じて、深く苦しんでいます」
「…………」
「きっとあなたなら大丈夫……あなたなら成し遂げられる。だから、自信を持ってください……それは私が保証しましょう」
「そういう、ものなのか?」
「そういうものです。理想は高く、妥協する必要はありません……ただし、自分をあまり責めないでください……私に言えることは、それくらいですかね?」
「知らないうちに、俺はカウンセリングを受けていたようだな」そう言うと丈瑠は椅子から立ちあがる。
「お代はけっこう、ただし……」西村は言葉を切って丈瑠を見つめる。
「必ずこの世を救ってください」そう言うと西村も立ちあがり力強く、そしてまっすぐに丈瑠を見やる。
「ああ……わかった」丈瑠も力強く頷き、そう答えた。
「幸運を……」そう言うと西村は手を差し出した。
二人は固い握手をかわして、そして別れた。
大和屋暁『侍戦隊シンケンジャー』26 本文 志葉丈瑠 西村 より
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