土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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「僕は巌雄先生に心の底から敬意を表したい。この医学情報の存在は世の中に対する楔(くさび)になる。それがわかるのは、もっとずっと先のことだろうけど」
「オートプシー・イメージング・センター(Aiセンター)、ですか」
「巌雄先生はエーアイ・センター構想と碧翠院桜宮病院の検死システムが両立しないことを見抜いてた。同じエーアイだけど、桜宮病院では真実を覆い隠すために行われていた。それに対し、エーアイ・センターの設立理念は、ガラス張りの医療だ。実現すれば桜宮病院は歴史の徒花(あだばな)として叩き潰される運命にあることを予見してたんだね、きっと。一年半前のバチスタ・スキャンダルの時、この流れを読み切って、廃院に向けて舵を切っていたとは、いやはや大した慧眼(けいがん)さ」
白鳥はため息をつく。
「失ってみて初めて、巌雄先生の言葉の真の意味がわかったよ。桜宮病院という闇が無くなって、これからの僕の仕事はずいぶんとやりやすくなった。そして……」
白鳥は言葉を切り、モニタ画像をぼんやり見つめた。僕は根強く次の言葉を待つ。あまり長い沈黙に我慢しきれなくなり、とうとう、そっと促してしまった。
「……そして?」
ぼんやりと宙を見つめていた白鳥は、僕の催促に、夢から覚めたようにはっと我に返る。
「そして同時に、とても難しくなった。なるほどね、光も闇も一ヶ所に集めようとすると気が狂う、か」
海堂尊『螺鈿迷宮』三十五章 螺鈿の闇と光の中で 本文 天馬大吉 白鳥圭輔 より
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