土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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「ところで田口先生って誰ですか?」
すみれは押し黙る。それから、まるでムキになって日記帳を取り返し終えた少女みたいに、照れたように微笑む。初々しい表情に、僕はどきりとした。
「昔、研修の時に世話になった人。東城大でさ、まあ、ましな方かな……グズでどうしようもない人だけど」
すみれの笑顔の裏側には、僕には手の届かない膨大な時間があることに気づかされる。不意に僕は、小さな苛立ちを感じた。
海堂尊『螺鈿迷宮』十六章 白鳥皮膚科病院 本文 天馬大吉 桜宮すみれ より
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