土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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美智は二枚の写真を交互に見て、真剣に検討し、勢い良く片方を指さす。「こっち!」「伝染性軟属腫ね。それでいいの?実態はミズイボと同じだけど、後悔はしない?」
美智はこっくりする。決心は固いようだ。それにしても、後悔する事態って何だろう?
「本に書いてある通りにお薬だすからね。僕とみっちゃんが二人で決めたことだから、文句はいわないこと。あと、お薬を塗って症状がひどくなったら、すぐお薬中止、看護師さんに報告。これだけは守ってね」
白鳥は小指を差し出す。
「指切りげんまん、具合悪くなっても文句言わない。指切った。おーい姫宮、処方箋持ってきて」
遠くで様子を見守っていた姫宮はぴょんとはねると奥に消え、処方箋一式を持って駆け戻ってきた。投げられたボールをくわえた犬みたいだ。姫宮ならさしずめシェパード。白鳥は薬の名前を書きあげると、ひょいと姫宮に投げる。うぉん。姫宮は処方箋をくわえ、じゃなくて、小脇にはさんで、とたとたと駆け出す。
「こういうのをインフォームド・コンセントって言うのさ。患者さんとお医者さんがお互いに納得してから治療を始めるっていう、最先端医療なんだよ」
おお、と西遊記の三婆が感心してどよめく。だが僕は白鳥の言葉に納得がいかず、首をひねる。どこかが違う。絶対そんなはずはない。落第医学生の僕ですら、そう思った。これでいいならひょっとして、僕なんかでも医者になれるかも、僕は自分の考えにぎょっとする。医学生なんだから、医者になれて当たり前だろ。
海堂尊『螺鈿迷宮』十六章 白鳥皮膚科病院 本文 天馬大吉 白鳥圭輔 姫宮香織 三婆 より
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