土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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(血塗れヒイラギはいつになったら花咲くことやら)
心の中で僕は呟く。僕が葉子につけた渾名を、葉子は知らない。血塗れは真っ赤な校正原稿の隠喩だ。
「とにかくこれはボツ。要求に応えてないから。いいものと売れるものは別物なの」
葉子は僕に少しだけ優しい視線を向ける。
「引用グセはやめた方がいいわ。ぴったりの引用をしても手柄にならないし、不適切なら見苦しい。大体、風俗嬢が餓死したという些細な事件記事に、トルストイなんて、大袈裟すぎる。読みたいのは、天馬君のオリジナルの言葉よ」
オリジナリティは、堅牢たるパーソナリティから生まれる。人格の輪郭が不明瞭なモラトリアム青年の僕は、葉子に痛いところを衝かれて黙り込む。
海堂尊『螺鈿迷宮』一章 血塗(ちまみ)れヒイラギ 本文 天馬大吉 別宮葉子 より
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