土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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そう、今日はAiセンターの創設会議の当日だ。
病院のカフェテリアで僕はハコを待っていた。一緒に創設会議に参加するためだ。
僕の向かいには冷泉深雪がいて、授業が終わった後に一緒にお茶をしている。スマホをチェックしていると、少し前に田口センター長から簡素なメールが届いた。
(略)
これは提案ではなく通告だ。しかも発信者は放射線科の島津先生だ。やはり田口先生は傀儡で、黒幕は島津先生なのでは、と思えてしまう。それにしても、この傲慢なメールの印象と、極楽病棟で目にしたカルテの中の田口先生の実像は乖離(かいり)が大きすぎる。
気がつくと田口先生は、僕の前に巨大な壁として、立ちはたがっていた。
携帯画面を眺めている僕に、冷泉深雪が言う。
「さっきのメール、私も読みました。何だかどきどきしちゃって」
本日の冷泉深雪は、白いブラウスに細身のジーンズというシンプルないでたちだ。
だがその分、スタイルのよさと胸のふくらみが強調されている。
それは男心の妄想がなせる業だけど、何より自分の剣呑さに無自覚である点が、コイツの問題点だ。などとそんな他愛もないことを考えていたら、僕の中に溢れていたはずの美智を失った悲しみは、いつの間にか薄らいでいた。まったく、男ってヤツはどうしようもない生き物だ。
海堂尊『輝天炎上』23章 落第王子の当惑 本文 天馬大吉 冷泉深雪 より
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