土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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その日、真司は眠れない夜を過ごした。
ショックだった。蓮も美穂も自分のために戦っていたわけではなかった。恋人と両親のために命を賭けていたのだ。それに比べて宝くじの当選を願った自分を深く恥じた。
間違っているのは自分の方ではないかと疑った。要するに自分のしているのはただのおせっかいなのではないのか。
故郷でのことが思い出された。昔から他人の悩みに首を突っ込み、おせっかいを焼きすぎて嫌われたものだ。
ふと、鍾乳洞のことが頭に浮かんだ。もしかしたら自分はまだあの迷路の中から抜け出していないのかもしれない。
おばあちゃん。
何度も祖母に語りかけた。
きっと祖母なら、なにも考えるな、お前のできることをしろと言うだろう。人々のために尽くせ、不幸な人々を救ってやれ、と。
だが、今の真司には自分にはできることがわからなかった。人のために尽くすという意味がわからない。
真司は鏡の協会で会った影のような存在を思い出した。
もし、彼が契約者バトルを仕切っている張本人ならもう一度会って話をしたい。契約者バトルの理由を、秘密を聞いてみたい。話によっては殴ってやりたい。元はと言えば、みんなあいつが悪いんじゃないのか?
真司は答えを見つけられないまま眠りに落ちた。
真司を病院に案内した翌日、恵里を見舞った蓮はテーブルの花に目をとめた。
昨日捨てた花に代わって、真っ白いユリの花が飾られている。
城戸真司という人が見舞いに来た、と優衣が教えた。
真司は花を花瓶に活けると長い間恵里の側に佇み、手を合わせて祈っていたという。
一瞬、蓮の頭に血が上った。
(奴め、よけいなことを!)
花を捨てようとして思いとどまる。
蓮には真司の心情が目に見えるようだった。
真司は恵里の回復を祈ったのだ。そうなれば、蓮は戦いをやめることができる。
蓮は花を床に叩きつけようとして花瓶に戻した。
たしかによけいなおせっかいに違いない。だが、恵里のために祈った。その祈りに嘘はない。恵里に向けられたその言葉を、誰が否定することができるだろう。
蓮はそっと恵里の頬に触れた。そして蓮もまた、恵里のために祈りはじめた。
井上敏樹『仮面ライダー龍騎』12 本文 城戸真司 秋山蓮 神崎優衣 より
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