土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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薄暮の中、桜宮岬から燃えさかる塔が見えていた。五階の窓から炎がちろちろと顔を出していたが、やがてどさり、どさりと音がして、三階と四階の窓から真っ赤な大蛇が顔を出し、建物にまとわりついていく。
ケルベロスの塔は、熱を加えた飴細工のように、ぐにゃりぐにゃりと崩れていく。
炎に包まれた姿は碧翠院に瓜二つだったが、その怨念の塔が崩れ落ちていく様を、田口たちは呆然と見つめていた。隣では、跪いた銀縁眼鏡の彦根がうつろな目で虚空をにらんでいる。
昂然と顔を上げた別宮葉子の隣では冷泉深雪が泣きべそをかいている。そして田口の隣には、影のように高階病院長が佇んでいる。
白光が夕空を貫いた。
ひと呼吸を置いて、大音響の爆音が轟き、夕闇に白煙が立ち上る。
Aiセンターの塊、リヴァイアサンの心臓である9テスラの高磁場誘導ニオブチタンコイルが、クエンチを起こした瞬間だった。
冷泉深雪が、身体を震わせる。
「天馬先輩は大丈夫でしょうか」
別宮葉子は冷泉深雪の肩を抱いて、言う。
「私と天馬君はは腐れ縁。ふたり一緒の時は酷い目に遭うけれど、最後は不運のカードがひっくり返る。私が無事なら天馬君も大丈夫。だって天馬君は私のラッキーペガサスだもの」
冷泉深雪は、目を見開いて別宮葉子を見た。やがて燃えさかる炎にきっぱりと視線を向けた。
「そうですよね。天馬先輩は無敵の落第王子ですものね」
冷泉深雪と別宮葉子は身を寄せ合い、燃えさかる炎をいつまでも見つめ続けていた。
海堂尊『輝天炎上』31章 炎の祝福 本文 別宮葉子 冷泉深雪 田口公平 彦根新吾 高階権太 より
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