土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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「艦長とミナトくん。どっちが勝ったかのう」
グイと湯のみをあおって、フクベが言った。湯のみの中身は、いつのまにか、お茶から酒に変わっている。
「艦長だろうさ」
空になったフクベの湯のみに、酒をつぎながらホウメイは答えた。
「ほぅ、どうしてかね?」
「家柄、権力、資金……どっちに転んで間、艦長が勝つようにしたんだろうさ。プロスさんのことだから」
ホウメイの読みは当たっていた。
プロスペクターはユリカが……というより、ミスマル家が引き取る方がよいと考えていた。しかし、ミナトの気持ちも大事にしたい。大岡裁きという面倒な方法を取ったのだ。これなら、どっちに転んでもユリカの勝ちにすることができる。一応、皆にも理由を説明できる。
「ところで……」
ホウメイのついだ酒を飲みながら、フクベが聞いた。
「本当に、ミナトくんがあんなことを?」
「さあ」
ホウメイが悪戯っぽく笑った。
「嘘も方便……というわけかね」
「嘘じゃないさ。ただ声に出して言わなかっただけで、心の中はそうだったはずだよ」
「なるほど。それなら嘘じゃないか」
愉快そうに、フクベが目をほそめた。
「ま、今回はちょっとおせっかいだったかもしれないけどね」
ホウメイは湯のみについだ日本酒を、一気に仰いだ。
今日の酒は、格別にうまかった。
ノベライズ『機動戦艦ナデシコ ルリAからルリBへの物語』本文 ホウメイ フクベ・ジン より
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