土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
通報 |
廊下がきしむ音。がらりと扉が開く音。規則的な機械音は、酸素供給ボンベの音か。
----あら……久しぶりね。
懐かしい声。でも私の姿が見えていないのが哀しい。
電波の状態が悪く、会話はとぎれとぎれにしか聞こえない。いらいらしながら耳を澄ましていると-茉莉亜叔母さまの口から思わぬ声が飛び出した。
----あなたの行く手を阻むのは、すみれちゃんよ。気をつけてね。
すみれは死んでしまったんですから、と小百合がとりあわないと、叔母さまは言う。
----それなら、すみれちゃんの想念に気をつけなさい。あなたの側にいるわ。
小百合が母屋から出てきた時には雨は上がり、雲間から薄日が差していた。小百合の後を、水たまりを避けながら、少し離れてつける。
(略)
小百合はどうして突然、茉莉亜叔母さまを訪問しようと思ったのか。一晩経って理由がわかった気がした。小百合は血族と会って、その血が指し示す方向を確認したかったのだ。それは小百合が私の存在に気づいていない証拠でもあった。
わかっていたら、小百合は茉莉亜叔母さまではなく、私に会いに来ただろう。
海堂尊『輝天炎上』第三部 透明な声 03 魔窟 本文 桜宮すみれ 桜宮小百合 三枝茉莉亜 より
トピック検索 |