土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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四月。僕たちの学年はひとりも留年者を出さずに学部五年に進級した。これは相当の快挙だったらしく、後に僕たちの学年は、奇跡の年代と呼ばれることになる。
不思議なもので、学年によって優秀だったりどうしようもなかったりというムラがあり、ある学年ばかりが教授を輩出したりすることもあるらしい。
僕に限っていえば、留年を繰り返したせいで同級生が年々増えているから、在籍中の学年と注釈とつけなければ正確ではない。あるいは冷泉深雪の学年と言えばいいかもしれない。でも自分が在籍しながら、“冷泉の学年”などと他人行儀に表現していると、この学年さえも僕の学年でなくなってしまうかもしれないという、困ったことになりかねない。
それは困る。
碧翠院の最後の日から、医学と真剣に向き合おうと思っていたからだ。僕は、今度留年すると放校になってしまう。それだけは耐えられない。
そう考えると、ああ、僕って更生しちゃったんだなあ、とつくづく思う。
海堂尊『輝天炎上』13章 臨床の季節 本文 天馬大吉 より
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