土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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桜宮岬に設置されたAiセンターに、我々の車が到着したのはそれから二時間後、陽が傾き、夕方の帳(とばり)が包み始めた頃だった。
夕闇の中、車から降りた高階病院長が、薄暗い空に浮かび上がった天空に屹立(きつりつ)するジャックナイフのような塔の輪郭を指して言った。
「あれがAiセンターです」
すると東堂が両手を広げて言う。
「ファンタスティックだな。ここがミーの職場になるのか?」
高階病院長はうなずく。
「ここも拠点ですが、東城大の画像診断ユニットに遠隔診断ネットを構築しますので、大学でも業務が可能になります」
「WOW(ワォ)、そいつはすごい。一発で気に入りはったどすえ」
なぜに京都弁?東堂の常人離れした独自の思考についていくので精一杯の俺だが、とりあえずノーベル賞候補最右翼の大物に気に入ってもらえてほっとする。
しみじみと塔を眺めていた東堂は、俺に向かって言う。
「このタワーはシャープにしてグロテスクなスネイル(かたつむり)だな」
俺は呆然とする。この塔が、かつてこの岬を睥睨した碧翠院のフォルムを踏襲したらしいことを、東堂は知る由もない。にもかかわらず、碧翠院が持っている秘められた怨念を嗅ぎ当てた東堂の嗅覚は恐るべし、だ。
車から降りる時、東堂ウルトラ・スーパーバイザーはとりあえず俺の頭に載せたカウボーイハットを取り上げ、自分の頭に載せた。その行動の真意を付度すれば、単なる帽子置き場から、マイボスという名の地位に実質的には多少なりとも近づけたようだ、とも思ったが、それは単なるうぬぼれかもしれない。
海堂尊『ケルベロスの肖像』7章 東堂サプライズ 田口公平 高階権太 東堂文昭 より
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