土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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「また天馬のヤツが何かやらかしたんですか?」
どうやら東城大では、天馬大吉は札付きの問題児として一目置かれているようだ。
「いや、学習状況とかの話じゃありません。別件でちょっと話を聞きたくて」
俺は医学生の学習状況が悪いからといって、お説教をするようなタイプではない。自分にそんな資格がないことは、俺自身が一番よくわかっている。
学生課の男性事務員は過去の履修表をプリントアウトして手渡しながら言う。
「授業をサボっては留年を繰り返し、放校寸前でかろうじて踏み留まっている怠け者の劣等生ですよ。まあ、最近は少し心を入れ替えたようですが」
履修表を見て、その評価が妥当なことを確認する。だが俺は成績表を改めて詳細に見直して、言う。
「でも、ここ二年はきちんと履修しているようですね」
「どうでしょうねえ。人間の本性ってそんなに簡単に変わりませんですから」
肩をすくめる。学生時代にサボリ魔だった俺は、ひとつ間違えば天馬と同じ運命をたどった可能性もあった。そうならなかったのは高階病院長がいい加減で、かつ度量が大きかったからだ。ただし、そのツケは今も延々と払わされている、というオチがあるのだが。
海堂尊『ケルベロスの肖像』9章 碧翠院の忘れ形見 本文 田口公平 学生課の男性事務員 より
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