土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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「ええと、ですね、血液型はB型で、誕生日は六月の……」
もじもじしながら言いかけた俺の言葉を、姫宮は突然、片手を上げて制止する。
「ストップ。そこから先は第一種個人情報になりますから、そこまでで結構です。六月生まれということは双子座蟹座のどちらか、ということでよろしいですね」
「え?ああ、そうですけど」
「ちなみにどちらかですか?」
「えと、蟹座、です」
それなら最初から星座を聞けよ、と思いながらも俺は素直に答える。
すると姫宮は天井を見上げて、しばらく何やらぶつぶつ小声で唱えていたが、唐突に滔々(とうとう)と喋り出す。まるでコンピューターの暴走みたいだ。
「蟹座のB型。アナロジーは猫、クラゲ、シメジ、レタス、キュウリ。そよ風、真珠、ラッコ、そして……螺鈿」
俺はぎょっとした。なぜここで螺鈿がからんでくるのだろう。
いや、その前にコイツは、一体何を言っているのだろうか。
姫宮はなおも滔々と続ける。
「さらに鏡とリンパ液、オパール、いぶし銀。青白い白、水っぽい陰鬱な味。寓意(アレゴリー)は、矢を放ちながら逃げる子ども。悪と同様、善にも強い感情の絶大な権力……」
あのう、一体何をおっしゃっているのですか。
とうとう我慢しきれずに、俺は口を挟む。姫宮は小声で言う。
「田口先生って、ウワサ通りの方だったんですね。ちなみに、この評価は私がしたものではなく、国文社刊の『占星術の鏡』からの引き写しですから、どうかお気を悪くなさらないでください」
「いや、別に気を悪くしたりしませんが、気になることはあります。今の話は単に蟹座のアレゴリーで、血液型の要素が抜け落ちているように思えるのですが」
「すみません、またやってしまいました。だからいつも室長に叱られてしまうんです。お前は最後まできちんとしないからダメなんだ、と」
姫宮は自分の額をぺちん、と叩いて、ぺこりと頭を下げる。
「では血液型を総合評価に反映させていただきますます蟹座の長所は鋭い感受性、繊細な心、想像力、短所は二重性、中傷、羨望、そこにB型の周囲の状況を顧みない、自己中心と呼ぶにはあまりにも幼さすぎる突進力を加味しますと、先生の性格とは……」
そこで姫宮は、はっと息を呑む。俺は思わず引き込まれて尋ねる。
「……私の性格とは?」
「おしりぺんぺんしながら校長先生に歯向かうガキ大将……」
「おしりぺんぺんのガキ大将?」
「……のホサ(補佐)です」
途端にこれまで必死に何かをこらえていた高階病院長が、ついに爆笑をする。
海堂尊『ケルベロスの肖像』3章 ファンキー・ヒロイン 本文 田口公平 高階権太 姫宮香織 より
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