土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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無言の退出は、承諾を意味する。部屋の外で、田口と翔子は、顔を見合わせてため息をついた。
「ここまで強引な高階病院長は久しぶりです。これでは従わざるをえませんね」
「あたしはもう少し、反論を考えてみます」
そうは言ったものの、翔子はその現実性が薄いことを感じていた。田口がふと、呟く。
「不毛な論争ばかり先走らせてしまって、実は私たちは一番大切なことを忘れていたのかもしれません」
「一番、大切なこと?」
「本人の気持ちです。まず佐々木君の気持ちを確かめるのが一番でしょう」
田口の言葉に、翔子はうなずく。
「本当にそうですね。それなら今からアツシを不定愁訴外来に受診させましょうか」
「それには及びません。こちらから参ります。ご一緒しましょう」
海堂尊『モルフェウスの領域』8.サイクロビアン・ライオン 本文 田口公平 如月翔子 より
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