土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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仁は笑みを浮かべ、咲に向かって頭を下げた。
「咲さん、ありがとう。さすがは武家の娘さんだ」
咲は、感激の涙を浮かべながら、満面の笑みで答えた。
「いいえ……南方先生こそ。先生はきっと、神様の国からやってきたお医者様ですわ!」
だが、仁は心の中でそれを否定していた。
自分は神の国から来た人間などではない。百数十年の未来からやってきた 、ただの一介の脳外科医に過ぎないのだ、と。
仁はこの子供の運命を変えてしまった。おそらく、仁がいなければ、子供は助からなかっただろう。恭太郎と同じように。
それが、未来にどんな影響をあたえるか、仁は想像もつかなかった。あるいは、日本の、いや世界のたとるべき歴史が大きく変わってしまうことになるのかもしれない。
けれど……救える命を放っておくなど、仁ははできなかった。このまま、この世界で過ごさなければならないのなら、仁は医者として生きていくつもりだった。
もし、仁をこの時代に送ったのが神の仕業なら、それが神の意志に違いない。仁は確信に近いを抱き始めていた。
小説『JIN-仁-』神の章 本文 南方仁 橘咲 より
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