土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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「だから」
ランカは何かを決した表情で、そこにいる大人たちを見据えた。
そこにいるのはもう、アルトやオズマが知る気弱な少女ではなかった。自分がやるべきことを見定めた、一人の女性だった。
「だからきっと私も感じるんだと思うんです。バジュラたちの気持ちを、おなかに……」
「バジュラの気持ち!?バカな!奴らは脳がほとんど無いって……」
「お前な」
クラン・クランがどこからか取り出したハリセンでオズマの頭をはたいた。
「脳が大きいと知能も大きいなら、像やクジラはお前たち地球人類より頭がいいことになるだろうが。そもそも、脳と心の関係は、そんな単純なものではない。そもそも貴様、脳がどうやって思考してるのか理解しているのか?」
「い、いや……」
外見は小学生のようだが、クラン・クランはれっきとした異星生物学の研究者である。美星の高等部カリキュラムを受けながら、フロンティアの中央大学の研究室にも籍を置いている。その分野では傑物だった。
「大まかにくるめれば、我々の脳とは神経細胞ニューロンネットワークと、それを活動、保護するためのシステムだ。つまり、ニューロンネットワークに相当するものを、神経細胞以外の形で担保できれば、どうだ?」
「それがフォールド細菌だと……!?」
「ああ。おそらく、単体のバジュラでは我々の知的活動ほどのことは行えない。だが、それがタイムラグのないフォールド通信によって、もっと巨大なネットワークを構成しているとしたらどうだ。-----コンピュータ・ネットワークを想像してみろ。個々の端末の力は弱くても、総体はまるで集合した巨大な知性のように振る舞うことができる……。星系規模に拡大したバジュラの総体が、バジュラという統合知性なんだ。頭や脳に見えるものは、おそらく奴らにとっては、せいぜい指の爪くらいの存在だろう。それも端っこのな」
ふぅ、クランは理解の悪い生徒に説明する女教師の顔になった。せめて身長があと二十センチあれば、もっと似合ったことだろう。
劇場版『マクロスF』小説(下) 第9章 射手座(サジタリウス)〜ドント・ビー・レイト〜 本文 ランカ・リー オズマ・リー クラン・クラン より
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