土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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ちとせの攻撃の矛先が刑事たちに向く。
「あんたたちにこの気持ち、わかんないよね?」
「ええ、ぼくにはわかりませんねえ」
右京の返答はにべもない。ちとせは冷酷な刑事をにらみつけ、鬱憤を吐き出した。
「ほら、結局みんな一緒よ。どうせあたしたちのことなんか、他人事なのよ!」
「いえ、そうではありません。あなた方が、どうして子どもを誘拐された親の気持ちを考えなかったのか、それがわからないんですよ。きっと親たちは、我が身を切られ、命が縮むような思いをしたはずです。子どもたちを一番愛してるはずのあなた方が、なぜそれを考えなかったのか。そんなことすら思い至らなかったあなた方に、子どもたちを心配する資格などあるのでしょうか」
正論で引導を渡され、勝気なちとせもついにその場で泣き崩れた。
「自首してくれますね?」
薫が申し出ると、妻の肩を抱いた則彦がしっかりうなずいた。
薫には事件が解決した爽快感が得られなかった。
「世間は同情的なのに、結局『のぞみの家』は閉鎖されちゃうみたいです」
「みたいですね」
右京はいつものように冷静で落ち着き払っていた。
「子どもたちもばらばらになっちゃうのか。なんか、つらいですね」
「大切なのは“家”という入れ物ではありません。ばらばらに暮らしていても、ちゃんとつながっている家族もいます。それに、子どもというのは、意外とタフなものですよ」
「そうですよね」薫は自分を納得させるように声を張った。「監禁されてもキャンプみたいにはしゃいでいたそうですし」
「たくましく生きて行ってくれることを信じましょう」
「はい」
力強く答えたとき、薫の心が少しだけ晴れた。
ドラマ『相棒』Season2 小説 第十五話 同時多発誘拐 本文 杉下右京 亀山薫 望月ちとせ 望月則彦 より
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