土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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今中は最近、新聞でコールドスリープ支援法という時限立法が成立した、という記事を読んだことを思い出した。そのことと西野は関係しているのだろうか。
最先端研究分野はSF小説に似ている。
それは極北大学医学部第一外科教室の恩師、水沢教授の決まり文句だった。
かつてSF領域だった技術が現実化している。少年時代にわくわくしながら読んだ小説やマンガの通りになっている技術もある。携帯電話などは特撮怪獣映画で隊員が持っていたのを羨ましく思っていたが、今では誰もが当たり前に使いこなしている。
技術的な願いは叶った。だがあの頃感じた、希望に満ちた未来社会がすっかり色褪せているように思えるのは、なぜだろう。
技術の進歩はすさまじいが、人間はそれに見合う進歩をしていない。無力な状態で産み落とされ、自分の意志で生き抜ける状態になるのに、親がかりで十年掛かるし、人間が組み上げた社会という巣に適応するにはさらに二倍の月日を必要とする。生まれ落ちて三時間で自分の足で立つ子鹿の自立精神とはあまりに違いすぎる。
かつてこの病院で起こった、生命誕生の際の悲劇。そこに悪意はなかったが、いのちが生まれなかった時、天の悪意ん引き受ける殉教者を社会と遺族は必要とする。その生け贄として選ばれた医師は今、冷たい鉄格子の向こう側だ。彼を鉄格子な向こうに送った遺族でさえ、彼を信頼し切っていたにもかかわらず。
海堂尊『極北ラプソディ』11章 世良の秘密兵器 本文 より
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