土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
通報 |
「ワシの息子だよ。高校で進路に迷ってやがってなあ。医学部を勧めているが、よりによってスキーで身を立てるとか言い出しおって」
今中は少年の顔を見た。
「プロになりたいの?」
少年は警戒心を面に浮かべながらうなずく。今中が言う。
「だったら医学部に入れるくらいの集中力がないと無理だね」
少年の目の色が変わった。今中が続ける。
「僕も極北大の医学部でスキー部だった。プロを目指した先輩がいて、結局諦めたけど、極北大でよかったと言ってた極北大はスキー環境に恵まれているからね」
少年の目が光った。今中の話に興味をひかれたようだ。
「極北大にはスキー場の診療所バイトがあって、医学生や研修医が行くんだけど、怪我人や病人がいなければゲレンデで滑り放題。先輩は特別に営業時間の後、難コースのリフトを一時間動かしてもらってた。極北大ならプロだって目指せる」
少年がおそるおそる言う。
「でも医学部の勉強をしてたらスキーの練習ができなくなっちゃうのでは」
「先輩は言ってた。医学部ごときの勉強についていけなければ、トップスキーヤーになんかなれない。連中は頭もいいんだぞってね」
桃倉少年の表情がみるみる強い意志をを孕んでいく。そしてぺこりとお辞儀をした。
「わかりました。プロでも、医学部に受かるくらい勉強ができなければ、世界トップになれないんですね。僕、スキー・トレーニングをしながら極北大学医学部を目指します」
そしてはにかんだように笑った。
「どっちもダメかもしれませんけど」
今中は思わず、そんなことないよ、と口にしていた。
海堂尊『極北ラプソディ』15章 将軍の日 本文 今中先生 桃倉センター長 桃倉少年 より
トピック検索 |