土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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フリット・アスノの視界を、炎が埋め尽くしていた。
そして、人の焼ける臭いと、合成建材のビルディングが崩壊して巻き上げられる塵芥とガスとが、彼の体を、ガレキの山の中に、打ち倒した。
が、そのようなことは、問題ではない。
「母さん……母さん……なのか……?」
ひどく、遠い意識の向こうで、母マリナが、銀色のメモリーユニットを幼い自分に手渡している。
「これには……これから、あなたがなすべきことが収められているわ。行くのよフリット。このAGEデバイスを持って」
なすべきこと。
母はそう言った。
一言も、人を殺せとも、UEを滅ぼせとも言わなかった。
ただ、なすべきことをなせ、と言った。
それをフリットは一度も問い直そうともしなかった。
炎の中にそびえ立つ、龍のごとき姿をしたモビルスーツ“ガフラン”。覚えている。確かにあの時、自分はガフランをにらみつけた。
それで-----。
(それから、どうしたのだ?)
ガフランの銃口が振り上げられ、幼いフリットを捕らえる。
絶叫する幼い自分。
そして。
『まだ……子供じゃないか。イゼルカント様は、地球種に生きる道を残してやれ、とおっしゃった。こんな、私の子供と同じ年の子供を殺せ、という意味ではないはずだ……』
嘘だ、という言葉が喉から漏れかかった。
だが、それはXラウンダーたる彼の魂が、ミューセルを通してパイロットと交感したことによる“記憶”だった。あの日、あのパイロットと共鳴したことから、フリットの覚醒は始まっていたのだから。
『生き延びろよ、坊や。恨んでくれていい。それでも、私の子供たちが、キミと手を取り合ってEDENに帰れることを……!』それは、戦争という悲惨の中で、人が示したわずかな良心だった。偽善だったかもしれない。だが確かにフリットはそうして生き延びた。生き延びて、愛する人を手に入れて、少なくとも幸福と言える時を生きることができた。
「さよなら、フリット……。あなたの運命を、ガンダムに託すわ……」
アニメ『機動戦士ガンダムAGE』小説 五巻 ホーム・スイート・ホーム 終章 本文 フリット・アスノ マリナ・アスノ ガフランのパイロット より
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