土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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車中での後藤は饒舌だった。
「道がでこぼこでしょ。なかなか道路補修できなくてさ。役場は一生懸命だけど、一年の三分の一が雪に埋もれてるから、仕方ないんだけど」
「遊びに行けなくて、さみしくないか?」
「こんな離島でも、ネット環境はちゃんとしてるから問題はないね」
極北市民病院の頃、後藤はネットの株式取引で相当儲けていたことを思い出す。
「あれは卒業したんだ。ここで診療してたら、そんな気になれないもの」
後藤は穏やかな口調で続ける」
「日常に必要なものは、患者が差し入れてくれる。取れたての野菜、陸揚げされたばかりの新鮮な魚なんかの食材はもちろん、衣服や文房具までみんなサービスさ。お金を受け取ってくれないんだよ。この島ではお金は何の役にも立たないんだ」
カネの算段に翻弄される世良と今中には浮世離れしすぎていて、ついていけない。そもそも、あれほど世俗の垢にまみれていた後藤のセリフとはとても思えない。
海堂尊『極北ラプソディ』25章 神威島 本文 より
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