土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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「わ、びっくりした」
全然驚いていないように、彼女は言った。そして、また机に視線を戻す。
「ただいま」
「うん、お帰り。帰ってきたんだね。しばらく見ないっ思ったら、またどっかで遊んできたんだ。ママさんの声、上まで響いてくるから、うるさいったらありゃしない」
そう言ってから、ハッとしたように振り返った。
「あ、今の、ママさんには内緒。ね?」
「わかってるよ」
佐間太郎はテンコの部屋に置いてあるベッドの上に腰掛けた。
「なに、ニヤニヤしちゃって。なんかあったの?」
「ううん、なんでもない」
「勉強の続きしていい?」
「いいよ」
彼女はまた机に向かったが、もじもじと足をすり合わせたり、ペンを指の上で回したりしている。
「あーもー!落ち着かないでしょう、後ろにいたらさ!なんか用なの!?だったら言ってよ!」
「そう、用事があったんだ」
「なに?だったら最初から言えばいいのに」
テンコはブツブツと言いながら立ち上がり、佐間太郎の横に座った。二人の重みで、ベッドのスプリングが音を立てた。
「で、なに?用事って」
「あげるものがある」
「ちょーだい」
「じゃ、目をつむってください」
「やだ」
「えー!つむんないとだめ!ありえない!」
「わかったわよ、もう!面倒くさいな!」
テンコは目を閉じた。長いまつげが、なにかを隠すように瞳を覆う。
「はい、どうぞ」
そう言って佐間太郎はテンコの頬にキスをした。
その瞬間、ピーーーーーーとヤカンが沸騰したような音がした。バフン、とハデな蒸気がテンコの頭の上に広がる。そして、彼女は全力で佐間太郎を殴り倒した。
ライトノベル『神様家族』一巻 第五章 神様家族 神山佐間太郎 テンコ より
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