匿名 2015-05-21 11:51:21 |
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(相手の気配が消えると同時にどっと肩が重くなる。それは部屋に篭もりきりで仕事を終えた後の疲労感にもよく似ており、知らず知らず気を張ってしまっていた事を示していた。雑念を振り払うように小さく首を振れば何を考えるでもなくただ天井を仰ぎ見て。そうして暫く静寂に満たされた部屋でゆっくりと深呼吸を繰り返していると聞こえてきたのは誰かの足音。耳を澄ませば誰だかすぐにわかってしまった自分に内心苦笑を零しつつ後ろを振り向くと間もなく襖が開かれ、想像したとうりの人物が姿を現した。想像していたよりも早かったなと思うと同時に自分の言葉を気にかけてくれたのかと気が付けば胸にじわりと温かいものが溢れ出す。つい口角が上がってしまいそうになるのをぐっと堪え口を引き結ぶと相手に向き直り。手を差し出す相手の幼子に向けるような口調に思わず眉を寄せそうになるが、先程手当てを了承したのは他でもない自分であるため、仕方なく強ばりかけた表情を緩めれば小さく息を吐いて。大人しく手を伸ばそうと膝の上からそれを持った上げた瞬間、ぴたりと動きが止まる。内番の時や今のように時々手袋を外している自分に対し、相手は一日の中でほとんどの時間その黒い手袋を着用しているように思う。そう考えれば相手の素手に触れるのは貴重な経験なのかもしれない。些細な事でも相手が関わる経験が増えるというのは嬉しい事で、僅かに心を弾ませながらも再度手を伸ばせば差し出された手の上に自分のものを乗せて。相手に触れた瞬間反射のようにどくん、と大きく跳ねた心臓はこの際無視してちらりと相手の持つ薬に目を向ければ「宜しく頼む」と短く言葉を発し。目を伏せた事で相手の瞳が隠れてしまい人知れず眉を下げていれば告げられたのは何時ぞやの自分を戒めるためにも発したその言葉。「嗚呼…そう、だったな」思わず過去形でそう返すと此方もつい目を泳がせて。相手の笑みの違和感をすぐ察知できる程度には自分は相手を見ているつもりだ。しかし先程から自分らしくない行動ばかり取っている手前その違和感の原因を尋ねる事もできない。どうしたものかと控えめに相手に視線を戻せばやはり自分が原因なのだろうかと首を傾げて
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