名無しさん 2015-03-04 16:47:14 |
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バンシーは岩と向かい合っていた。
確かあれは5歳の時だった。
彼が泉の水を鏡変わりにしてモヒカンにした時誰も反対しなかった。ただ時が流れただけだった。
確か妹もいたはずだが、彼には今岩しかなかった。
水はその雫が何年にも同じ場所を穿つとやがて穴をあける事が出来るという。
しかしバンシーにとって、そんな屁理屈を書いた哲学書など岩よりも簡単に穴を穿つことが出来る過去のものだった。
ハア!!!!
二つに割れた岩の中から刀が出てきた。
それはモヒカンの手入れに使う櫛の次に、彼にとって宝物になった。
「兄貴!!ここが例の島ですぜ!!」
バンシーはいつ自分が兄貴になったのか思い出せなかったが、彼のそのリーゼントには興味がわいた。
超合金で囲まれた島は過去の世界大戦の遺物だった。何事もなく上陸したのはリーゼントの器用貧乏のお陰だった。
ホログラムが歓迎した。
「自らの身を未来のために差し出そうという、その献身。我々は無駄には致しません。どうぞ、ゲートをおくぐり下さい」
その技術とは不釣り合いなチープな合成音があたりをこだまする。
「おお、なんですかい!この透明人間は!まさに伝説通りですぜ!!兄貴の拠点にするにはふさわしい!!」
「アア!!何が伝説だよ!こんな子供騙しに引っかかるとは、まだまだヒヨッコだな」
「あ、兄貴、さ、さすがです・・・・」
しかしバンシーはビビっていた。穿てない。ホログラムに実体はないのだ。
「どうぞ、お進みください」
「いくぞ」「へい!!」
だがバンシーは立ちどかなかった。ホログラムの光源を見つけたのだ。
「いやいや、お若いの。この通り、メガライフ様のお陰で200歳を越えてもビンビンですわい!え?グワワァアァアァ!!!」
そういって、案内しようとした継ぎはぎだらけの老人は、秘孔だらけだった。グローでバリーな光景が出来た。
「自然の摂理に反するなど言語道断」
「あ、兄貴・・・さ、さすが、迷いがないですぜ・・・」
バンシーはついついやっちゃっただけだが、それっぽいことをいった。
「ハハハハハッハハハハハ!!!、まさかこんな奴は初めてじゃわい!!」
老人の脳に埋め込まれた小さなネズミが耳障りなノイズとともにメッセージを発した。
「来るがよい、貴様たちに我が秘密の研究室に来られるように手配しよう・・」
そういうと機械ネズミは火を立てて、灰になった。
「こ、これは・・この島に大戦中、その技術のせいで国に追われ亡命を繰り返したとかいう、伝説の科学者・・・」
リーゼントは真剣だった。しかしバンシーはもっと真剣だった。老人グローバリーから彼の日記を見つけたのだ。
そこには、彼がこの島までわざわざ来て永遠の命を欲するまでの経緯が書かれていた。
大戦後の悲壮な世界で彼が抱いた孤独、迷い、挑戦、挫折、諦め、そしてそれでも意味を見出そうという希望。
バンシーは馬鹿だが何とか理解が出来た。涙を流した。秘孔をついてしまった事は忘れた。
「・・・いきやしょう!兄貴!!」
何だか語っていたリーゼントの話は終わった。
日記は、バンシーのトイレットペーパー代わりに使われ、永遠に彼の記憶に残る事になった。
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