ヌシ 2014-12-26 21:17:49 |
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いえ、どういたしまして。(当然の事をしたまでだと何でもないように小さく頷いて。はっとしたように途中まで出掛かった言葉をぷつりと切り此方を黙って見詰めてくる彼と目が合えば、自ずと溜め息に似た苦笑が漏れて。今まで幾度と無く揶揄されてきた名前だ、今更いい歳になってそれで恥ずかしがって怒るようなことは無いし、慣れたけれど教師になりたての頃は先生、と後に付けると幼稚園や小学校の女性の先生を子供が呼んでいるようで複雑だったと思い出しながら。「私が女性なら良かったんでしょうけど…これで父なんかはゴツいですから」この科白は。己を先生と自称するのが嫌で且つ生徒や他の教師の相手に因って一人称を使い分けるのも面倒で社会人として身についた自然な一人称の所為で、ギャグに聞こえかねないだろう。次いで彼の口から出る生徒からの評価と、彼自身からの評価、どうしてもこういうことを言われるのは心地が良くない、或る人は自分を卑下しすぎだと言うが自分自身プライドは高い方だ、ただただ素直に消化できずにこそばゆくて仕方が無い、一言でこれを表す日本語は、照れる、だ。あからさまに表情に出すことはしなくとも。相手から目を逸らして、ゆるゆると首を横に振って、「私だって人間ですから……表情くらいあるでしょう。それに。生徒から聞いたのって。他の先生のことじゃないんですか、だって、私の名前、覚えてなかったんだし」と。左手首の、革ベルトのクロノグラフをちらりと確認して、「じゃ、そろそろ。放課後また伺います」とごく控えめに会釈して)
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