ハナミズキ 2014-10-10 16:57:40 |
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今までにも、同じ家に居て二人っきりの夜を過ごした事は何度かあった。
でもそれは、同じ家だとは言っても、部屋は別だ。
しかし今は、狭い密室の空間にある、居住ルームに置かれているベッドに、鈴と和也の2人だけしかいない。
静かにしていれば、お互いの寝息さえも聞こえてきそうな距離に二人は居たのであった。
今までお互いの事を気にもした事はなかったが、昨日まではそこに居た圭太が、一人居なくなっただけで、こんなにも緊張をするものかと感じるほど、空気が張り詰めている。
が・・・、そう思っていたのは和也だけであったようだ。
鈴の方から「スー スー 」と言う寝息が聞こえて来た。
「・・・・・・こいつ、俺の事を男だと思ってないだろ・・・。」
自分だけ緊張をし、なかなか寝付けなかった事に、我ながら呆れ、そう呟いた和也であった。
気を取り直し、眠ろうと目を瞑ってみたが、車内は薄暗い明かりが灯り、その薄暗さが一層静けさを増す。
カーテンの隙間から見える外の景色も、街灯などの灯が無いため、より一層の暗闇に感じる。
空に浮かぶ月がとても綺麗で、その周りには夜空一杯に、宝石が散りばめられているかのようだった。
現代の東京では、この様に幻想的な夜空など拝めない。
数年前に、軽井沢に行った時に見た星空でも、街灯があったため、ここまで綺麗な星空ではなかった。
そんな事を考えていると、昔の出来事が思い出される。
鈴の母親と自分の父親が再婚をし、そんなに経っていない頃、風呂場から脱衣所に移った直後に鈴がドアを開け、裸を見られた事。
自分のたたんである洗濯物の中に、鈴の下着が紛れ込んでいた事。
酔っ払って寝てしまった鈴を、部屋まで運んだ時に、寝ぼけてキスをされた事・・・。
いつの頃からか、鈴を1人の女の子として見ている事に気が付いた。
初めの頃はただの同居人。
好きとか嫌いと言う感情は無く、興味さえもなかった。
バカで世間知らずだと思っていた鈴が、本当は頭が良く、一般常識は心得てはいるが、日本古来から伝わる常識に対し疎かったと言う事実を知った時、本当の『宍戸 鈴』と言う人物が気になり始めたのだ。
和也の周りに居る女子達は、お洒落や化粧に力を入れ、少しでも自分を可愛く見せようと努力している。
鈴は逆に、お洒落や化粧などには興味がないようで、いつも本を読んでいた。
高校時代は、昔話やおとぎ話の本を、大学に入ると、研究論文が載っている専門誌を読んでいたのだった。
どことなく他の女子と違う鈴の事が気になりだしたのは、この頃だろうか。
志望校や志望学科が同じだったこともあり、長年同じクラスメイトとして学校にも通い、家も同じなので、ほぼ24時間一緒に居る事になる。
気になり始めたその頃から、視界に入った時には、自然とその姿を目で追う事が多くなった。
しかし、素直ではない和也は、いつも鈴に対して憎まれ口ばかりを言っていたのだ。
そのせいかどうかは分からないが、鈴にとって和也の存在は、男とは認識をしていても、異性としては、まだ意識をしていないようだった。
和也は、自分の事を意識してもらうには、まだまだ時間がかかりそうだと、大きな溜息を付きながら眠りに入っていったのであった。
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