ハナミズキ 2014-10-10 16:57:40 |
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説明が終わり、主治医たちは部屋から出て行き、その後、貴族らしい男性と少し話をする。
「お前達はこれから何処に行くのだ」
「私たちはこれから王都へ向かいます」
「ほぅ~。なら、また会うかもしれんな」
「貴方も王都へ行くんですか?」
「私の家は元々王都にあるのだよ。ここは別宅だな」
「お金持ちなんですね。もし王都で私たちを見かけたら、ぜひ声を掛けてください」
「あぁ。そうしよう」
などと話していた。
一方、先ほど部屋から出て行った主治医は、いまだその怒りが収まらず、近くに居た使用人に小声で何かを言ったかと思うと、不敵な笑みを浮かべながら小声で呟く。
「このまま無事に帰れると思うなよ、小娘が・・・」
何を企んでいるのか分からないが、これは何かひと波乱起きそうな予感がする。
鈴達が屋敷を出る頃にはすっかり日も傾いており、太陽と入れ替わるかの様に、大きな月がその顔を覗かせはじめ、夕日を浴びて赤く染まっている。
とても綺麗だ。
その月を眺めながら歩き、町の外れまで来ると、数人の黒づくめの男たちに囲まれてしまった。
「何者!?」
「うるさい!やっちまえ!」
理由も言わずに切り掛かりに来るとは、何とも礼儀知らずなのだろうか。
いや、そんな事はどうでもいい。
いまはこの状況をどうにかしなければならない。
鈴は指輪を使う事にした。
空砲ガンを使えば、牛なら気絶で済むが、人間に向けて撃てば大怪我をする。
骨の2・3本は確実に折れるだろう。
したがって、この単距離では空砲ガンよりもスタンガン仕様を使う事にした。
向かってくる相手をひらりと交わしながら、その瞬間に体の一部に触り電流を流すと、バタバタと黒づくめの男たちが倒れて行く。
その様子を見ていた後方隊が、側に近寄るには危険だと判断をし、弓で狙って来た。
しかたがないので、空砲ガンモードに切り替え、狙いを定めて撃ち抜く。
1人、また一人と倒れて行く。
撃たれた方は、何が起きているのか分からない様だ。
この時代の飛び道具と言えば弓だ。
しかし鈴は弓など持ってはいない。
自分たちの方に手を伸ばしただけで、何かに撃たれ倒れて行くのだ。
倒れた人物を見ても、血などは流しておらず、何故倒れて行くのかさえ分からない。
身の危険を感じた黒づくめの男たちは、いったん引き揚げようとしたが、隠れて見ていた、先ほどの屋敷に居た主治医が姿を現し、逃げ出そうとしていた黒づくめの男たちに言う。
「何やってる!たかが小娘1人も殺せないのか!」
罵声が飛ぶ。
「しかし旦那様。あの娘、何か分からない物で攻撃をしてくるんですよ」
「何も持ってないではないか!早く始末をしろ」
そうは言われても、得体のしれない何かに狙われると言う事は、恐怖心がMAXに跳ね上がる。
なかなか側に近付いては行けないのであった。
鈴達の方も、背後をとても気にしており、なかなか隙が出来ない。
これも、紛争地で敵襲から逃れながら患者を救出し、治療に当たっていた鈴だから出来る芸当であった。
後100m程で車に着くと思われる場所で、主治医と黒づくめの男たちは動き出す。
物陰に隠れながら後を付いて来ていた男達だったが、鈴を射程範囲に収めると弓を力一杯引いた。
引いた矢尻が夕日に当たり、一瞬光ったのを圭太は見逃さなかった。
「危ない!!!」
圭太の体が鈴に覆い被さるように庇った瞬間に、矢が飛んで来て圭太の背中を貫いた。
ドスンと言う衝撃と共に、圭太の体の力が抜け、地面に倒れ込んでしまう。
「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
鈴が悲鳴を上げた。
しかし、いつまでも悲鳴を上げてうろたえている鈴ではなかった。
すぐさま矢が飛んできた方向を見定め、空砲ガンを撃ち放つと、隠れていた残りの男たち3人に命中をさせる。
男たちの側に居た主治医も、急に恐ろしくなり、逃げようとその場から立ち去ろうとした時に、鈴が撃った空砲ガンの的になった。
― パシッ ― 小さな音がしたと思ったら、主治医は激痛を感じ、気を失い倒れ込んだ。
襲撃してきた敵を全員倒したことを確認すると、鈴は大声で和也を呼んだ。
「和也ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
車両の中に居た和也がその声に気が付くと、外に出てくる。
少し離れた所で、鈴が圭太を抱きかかえるようにして和也の方を見ながら、
「圭太が弓に撃たれたの!一緒に運んで!」
大声で叫ぶ。
叫びながらも、圭太の脈や息遣いを確認し、矢が刺さっている所を見ると、丁度背中と腰の中間あたりに刺さっていた。
その位置から推測すると、太い血管や神経には影響がなさそうだったが、問題は内臓までいっているかどうかであった。
和也は急いで車内からタンカを担ぎ、出てくるが、1人で運ぶには大きすぎる。
鈴は、再度辺りを見回し、変わった様子がない事を確認すると、和也の元に駆け寄りタンカを運ぶのを手伝った。
すると、倒れている圭太の周りに、あの白い霧が現れ、圭太を包み込んでしまう。
「「えっ!?」」
2人は目を疑った。
こちらの時代に来る時に遭遇したあの霧だ。
青い稲妻の様な光が所々見える。
間違いない。
2人は慌ててタンカをその場に置き、圭太の元へ駆け寄って行ったのだが、側に近付いた時には、既にその霧は晴れていくのであった。
もしこのまま、圭太が時空に呑み込まれたとしたのなら、今居る場所は限りなく前線に近い場所に居る。
そんな未来に圭太が突然現れたとしても、誰も見向きもしないどころか、医者さえもそこには居ないだろう。
瀕死の圭太はいったいどうなってしまうのだろうか・・・・。
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