胡蝶 2014-09-12 22:42:07 |
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「…そんな話を、何であたしにするの?」
先に暖かな気持ちにさせられた分、あたしは、宇田の話した続きを聞いて裏切られたような気になった。言いにくそうにしながら、敢えて話をした宇田の態度にも欺瞞を覚え、口をついて出た言葉は自然と咎めるような口調になっていた。
―例え彼の夢の中だろうと、笑っているイツキが存在することに嬉しさを感じた
―例え誰の夢の中だろうと、イツキが苦しむようなことはあってほしくなかった
知らなければ、事実だってないも同じだ。死ぬときに「貴方は心臓が悪いから死ぬのだ」と言われれば、実際にその人が痛めていたのは肺だったとしても、その人にとっては「自分は心臓が悪いから死ぬ」ということになる。そのまま、感覚は永遠の闇に閉ざされるのだから、事実なんて結局、知覚できるかどうかだ。
―逆に言えば、知ってしまえば、夢や妄想さえ、圧倒的な存在感を持って、あたしの前に立ち塞がる―事実―だ
意識していないうちにあたしは泣き崩れていたらしく、モニター越しに見ているような現実感のない病室内で、宇田が看護師に叱責を受けていることだけが分かった。
「何の話をしていたの」
「興奮させちゃ駄目じゃない」
宇田は困惑した様子で、看護師に対して弁明か、或いは謝罪をしている様子だった。
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