胡蝶 2014-09-12 22:42:07 |
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翌朝、あたしがいっちゃんの病室に行くと、宇田がいた。
「宇田…」
呟いた声で宇田はあたしに気が付くと、軽く手をあげ、よぉ、と言った。
「今日は調子良さそうだな」
坊主を少し長くしたような味気ない髪型、仏頂面の似合う、やや丸みを帯びた顔。宇田は、不細工ではないと思うけど、決して恰好良いタイプの男の子ではない。それでも、朴訥として落ち着いた独特の雰囲気を持っており、近くにいると不思議と安心できる。
「良くないと、看護師さんがここへ来るのも許してくれないからね」
あたしが答えると、宇田は短く、そうか、とだけ言って、寝ているいっちゃんの方に視線を移した。あたしも人形のように綺麗な顔で、人形のように動くこともなく眠り続けている、―いっちゃんに視線を落とした。
「今にも起きそうだよね、って昨日も思ったんだ」
笑って言ったけど、不覚にも目には涙が滲んでしまった。宇田はまた、そうか、とだけ言った。
―数年前、事故に遭った。記憶が曖昧なところもあるため、もしかしたら、事件だったのかもしれない。
とにかく、曖昧な記憶とは対照的な、はっきりとした事実としてその結果、あたしはここに入院しているし、いっちゃんはここで眠り続けている。
「そういえばさぁ」
回想をしていたら、不意に宇田が話を持ち出した。
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