胡蝶 2014-09-12 22:42:07 |
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「俺は本来、人畜無害。それを亮一のやつ、真っ二つに切り付けやがって、酷い話さ」
嘆くような台詞とは裏腹に、男は微笑を浮かべながら続けた。そこで、あたしはようやく声を出せた。我ながら、かすれて、渇いた声色だった。
「あ…アナタは誰なの?」
前にいる男の正体が、あの不気味な怪物なのだと分かっていながらも、尚も信じ難い気持ちも強く、そのような疑問が口をついて出た。男は冷たい瞳であたしを見据えたまま、口を形だけ笑わせて答える。
「人畜無害の、名も無き怪物」
そうなのだろうか。いや違う、そうだ、この怪物は確か。
(いっちゃんの…)
思い出しかけときに、また男が口を開いた。
「但し、お前の幼馴染の影は返さないよ。返したくても返せないのさ」
その言葉にあたしは思わず男を凝視した。すると、その男の身体はぐにゃりと歪み、一匹の小さな蝙蝠になった。室内に笑い声が響く。
「カエシテホシイ…?カエシテホシイ…?」
蝙蝠となった男が、天井付近をバタバタと飛びながら、笑っているのだ。驚きと戸惑いで、両手を耳にやり音を塞ごうとすると、蝙蝠となった男は一層大きな声で笑い、開いていた窓から、真夜中の空へと飛び去っていった。
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