裕 2012-07-31 08:17:12 |
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1・無罪の殺人
暖かい春風の吹く中、さくらはある探偵事務所の前に立っていた。
『川口探偵事務所』
さくらはドアの横にある看板を確認すると、ドアをあけた。
その時、風と一緒に女の人の声が流れてきた。
〈こんにちは〉
………今の声は何……?
そう思いながら、さくらは靴を脱いで事務所の中に入った。
事務所のテーブルに美人の双子探偵、茜と翼が座っていた。
二人の前に、四十代くらいの男が一人座っている。さくらには、この何のやる気もなさそうな様子や、強盗でもビビって逃げ出しそうな風貌には、なんとなく見覚えがあった。両親の事件の時に、何度かあった刑事だ。でも名前は知らない。
「あ、さくら、早かったのね。」
男がさくらのことをちらっと見ると、茜に「あの時の娘じゃねえか、新入り?」と聞いた。
茜は「中学の時の同級生なの。」と言ってうすなずく。
「さくら…だったよな。」
さくらは苦笑いしながらうなずく。そしてさくらは荷物を部屋の隅に置くと、茜のとなりに座った。
「俺は刑事の横山達也だ。」
横山はそう言って軽く笑うと、「みんな横山さんって呼んでる。」と、付け足した。
「でも、私からみたら自称刑事にしか見えませんけどね。」
翼がからかうように言う。
翼の性格がなんとなく変わったような気がしたが、相手を怒らすようなことを言うのは、中学のころからかわっていないようだ。
「なんだと?俺は正真正銘の警察だ。」
横山はそういうと、警察手帳を翼に突きつける。
「本当のことを言っただけですよ。もっといえば、やる気のないおっさんですね。」
「いちいちうるせえんだよ!」
横山は翼を殴ろうと腕を振り上げる。
「自分よりも年下の女に暴力をふるうなんておとなげないですね。それに、警察が率先して暴力をふるうなんて、信じられません。」
翼は勝ち誇った笑みをうかべた。
横山は諦めたようにため息をつきながら手を下した。
茜はクスクス笑いながら「いつものことよ。」と、言った。
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