三丁目のミケネコさん 2024-10-06 22:18:03 |
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( 彼は肯定こそしなかったが、否定もしなかったので噂は概ね真実なのだろうと理解する。じくじくと心臓が痛んで、串刺しにでもされたような感覚がした。自分が今、どんな顔をしているのかわからない。へえとかふうんとか、そんな感じの相槌を打ってその場の空気をやり過ごす。そうやって何でもないのを装おうとして組んだ肩を、即座に組みかえされて動揺した。わかっている。"お前がいちばん可愛い"なんて台詞になんら深い意味はなく、俺の前でだけ年相応に振る舞う彼のいつもの軽口の一つであると。それでも、彼の中にあるさまざまな物差しの何か一つでいちばんを与えられるという出来事は、全ての仮面が剥がれ落ちそうになるくらい甘美だった。何も言えずに固まっていたから、彼の顔見知りらしき女子生徒の登場に救われ心の中で感謝する。腕をおろしてその子に意識を向けた彼にならい、こちらも一歩下がってその様子をじっと眺めた。彼に話しかける女の子を見るたび思うことがある。きみもこの男を好きだったりするのだろうか、と。俺はあまりに歪なこの恋を、何重にもくるんで奥の方に隠している。それ自体は大して難しいことではない。幸福であって不幸であることに、普通、同性愛なんてのは選択肢に存在しないものだから。会話を終わらせ振り返った彼にびくりと肩を震わせる。いらない、花壇で花より目立つんじゃないよ。……そんなふうに返そうと口を開いて、やめる。今はなんだか意味深になってしまいそうで、敏いこの人に勘ぐられるのが嫌だった。「あー、じゃあそっちの花壇適当にお願い」即座に取り繕った笑みを浮かべて、近くの蛇口に繋がれた比較的綺麗なホースを彼へと手渡す。古く傷んだ方のホースで反対側の花に水をやりながら、頭の中を巡って止まない残酷な疑問を問いかけた。)
遼さ、昔からそんなモテてたなら……なんで高校じゃ彼女作らなかったの?結構壁あるよね、誰にでも。
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