用心棒の小娘 2024-10-05 18:32:43 |
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(…懐かしい夢を見たような気がする、という懐古とも郷愁とも言えない程度の想念は、起床に伴い儚く崩れ落ちる夢見の記憶ともども速やかに失われて。冷え性の身には珍しく芯から暖まるような心地で上体を起こすと、それに対するあまりに明瞭な回答として隣へ転がる少女という異物が目に止まり。瞬間的に昨夜のいきさつが脳裏に蘇っては、未だうら若き相手の寝姿へ淡白な視線を落とし、まぁ悪くはない防寒だったなどという極めて無機質な所感を。それが相手にとって望ましい評価であるかはさておき、じきに灰色の瞳を逸らせば少女を起こさぬままに身支度を整え、一人部屋の外へと足を向けるだろう。一先ずは平生のルーティンとして、何か簡単な物でも胃に入れようと廊下を歩む音を止めたのは、微かに耳朶を掠めた野良猫らしきものの呼び声で。…しばしの間の後、薄く加工された肉片をはぐはぐと貪る身の黒い本家本元のネコ科動物が店裏に鎮座して。忽ちぺろりと平らげた口元をざらついた舌で舐ると、続けての催促の鳴き声と共にこちらを見上げる紫眼へ昨晩床を共にした飼い猫の姿が重なり。愛玩動物相手にも変わり映えのない面差しを向ける一方、そう満更でもなさげな口振りのもと再度身を屈め、手慣れた所作で追加を差し出して)
…強突く張りめ。全く、野良猫風情が……そうして一体、何人を誑し込んでいるのやら。
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