用心棒の小娘 2024-10-05 18:32:43 |
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ぅ、ふ──
(当然の事ながら人間は美味しくない、薄い皮膚が僅かに突っ張ってじゃれるような傷なんて残りはしない其れで、どうせなら飼い主様に擦り寄る薬漬けの猫のように甘えた声で鬱血痕の一つでも上手く残せるような薄汚れた大人だったなら──油断のひとつでも誘って自由になるために喉笛を噛み切ったに違いない。親猫が子猫を叱るように引かれた首後ろに、冷たい灰色が身を貫いてにゃあと鳴くことも許されない。無防備な飼い主様が悪いと言う隙も無いままに押し付けられた体温に閉口し喉の奥で声を潰す。肌を擦る寝具にも髪にも飼い主様の香が纏わりついて、目の前からも同じに香りがする。知らず止めていた呼吸を浅く再開しても飼い主様は穏やかに呼吸を繰り返しているだけ。憧憬と羨望と、少しの恩義と抱えきれない忠誠心と憎悪を、抱え込んで、使い捨ての片目として護ってきた目の前の男の眠りを妨げる気は牙ごと抜かれてしまったよう。腕を回すことも無く、ただ全てから目を逸らすように瞼を下ろし抱き込まれたまま、せめて今夜くらいはこの冷たい飼い主の体温が己の熱であたたまればいいと爪先をそっと触れ合わせて)
──おやすみなさいませ、朱墨様
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