用心棒の小娘 2024-10-05 18:32:43 |
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(決して広さのある贅沢な部屋では無いが、何よりも実用性を最優先とした何処か冷ややかな趣きのそこは、元々は先代の私室に当たる。当時からの据え置きである重厚な書斎机やわざとらしい程に健全な香炉の専門書等が居並ぶ本棚はさておき、一新した寝具の方は如何にもただ休息を取る為の場であると言うように、余計な装飾の一切を排された機能的なもの。そんな寝台に腰を下ろす己の姿は、例の怪しげな雰囲気を醸すサングラスを外し、深い紺色のゆったりとした寝衣にカーディガンを肩掛けしたに過ぎず、黒髪すら胸の手前で緩やかに紅の紐で結ばれているのみ。この手の生業において、齢は上に見られた方が何かと都合が良い。故に印象操作の一環としての上等な衣服や装飾の一切を外してしまえば、少しばかり素の風貌が若く見えてしまうのは否めず。とはいえ手駒風情には無用の心配だろうと適当に寛ぐこと暫し、もしも扉の先で何者かの気配、あるいはノックの音が響いたなら「入れ」と無機質に一言。よもや本気で夜伽などと誤認してはいまいが、さりとて生きた湯たんぽ代わりとまでは恐らく予期していないだろう相手へ、膝上に肘を置き頬杖を付きながらゆるりと視線を持ち上げて)
……それで、今夜の猫役を務める覚悟はして来たか?
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