可惜夜 2024-09-16 17:35:11 |
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此方に危害を加えるつもりはないと言う相手の柔らかな声と微笑みに、いつしか安心感を覚えるようになっていた。通常なら吊り橋効果的なアレだと自身の気持ちも突っ撥ねる所だが、多数の幽鬼に1人の非力な人間という構図では、彼の言動を信じるしかなかった。そしてどうにかしろという大雑把な願いも聞き入れられ、彼お得意の嫌味ったらしい文言に、もっと言ってやれと心の中で便乗していた。虎の威を借る狐よろしく軽侮の目で周囲を見ていたところ、そっと袂を握った手は解かれ、辛抱をしろと言うとほぼ同時に大きな体に包まるとすぐ足は地面から離れ、最も簡単に右腕一本で抱き抱えられた。確かにどうにかしろとは言ったが、それは幽鬼等を追い払えられればそれで良かっただけで、何も抱っこして助けてくれなんて縋った覚えはない。今すぐルール違反に抗議しようとしたが、彼が動けば振り落とされてしまわないかと、着物に皺を作る事も気にせず反射的に相手の右肩にしがみつくような形に。そして手を出して来た男、時化空とやらを制する声はいつもの嫌味に混じり静かな怒りを感じ、ここは大人しく抱かれることに。可惜夜とは向かい合わせの為、確認は出来ないが雰囲気から時化空は退いたのだろうと察する。約束は破られるし多少大袈裟ではあるが、もしかしたら下心無しに自分を助けようとしてくれたのかもしれないとほんの少し彼への不信感が解かれる。しかし、齢31にして軽々と抱き抱えられてしまうのは、心疾しいというか何とも言えない心情に。記憶は薄れかけているが、まだ一桁の歳の頃に出先で歩き疲れたから抱っこしてと父親に駄々を捏ねた時と殆ど同じでは無いか。相手は人外で人間を抱える事など特別な事はなかろうが、流石にこれは居た堪れず、何となく顔が熱っている気がした。しかも先程肩にしがみついたおかげで、右眼から垂れる花々の先を潰してしまった。一応助けられた身ではあるので、控えめに彼の右耳に囁いて。
「あの…もう大丈夫だし、降ろしてさっさと行こう。ああ…でも、その…花がちょっと…。」
(/無駄にモブさん増やしてしまってすみません…ありがとうございます…!自分で動かしておきながら早くくっつけよと焦ったくて仕方がなく……。)
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