東 2024-07-20 01:24:27 |
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(東の睫毛が上下する。瞬きで揺れる度に重みを感じるそれはきっと努力の結晶の一つだ。ただでさえなにかと行動に移るまでが遅い俺にとっては化粧――毎日のメイクにかける労力、手間と時間は想像に難くない。誰に言われたわけでもない。求められてもいない。それは現代の自己研鑽だ。
人は見た目がすべてなどとルッキズムには思わないけれど、見た目が入り口となる事は間違いない。実際に自分でも痩せてみてこうも反応が変わるのかと驚いたものだ。人間は中身とは言うがそれは外見を疎かにしていい理由にはならない。
東は努力した。俺はしなかった。中学時代に感じたヒエラルキーの正体はもしかしたらそれだけの差なのかもしれない。
俺が自分で努力したなどと言うのも烏滸がましいが、その結果いまこうして東と一緒に居られるのは間違いない。別段見た目が良くなったなどとは思わないけど。それでも東に〝応援〟してもらえるきっかけは俺が自分で手繰り寄せたわけだ。変わらないままだったなら東との関係ももっと違ったものだったかもしれない。)
……ああ、なんだ。
(くだらない、実にしょうもない話だ。
――あんなに関係性が変わっていくことを恐れていた俺は、とっくに変わった関係性に助けられていたんだ。
なら。変わったことで救われたなら。さらに変わることでの変化を恐れるのはズルい、よな。
たとえ結果として悪くなったとしてもいい思いだけしようなんてのは虫のいい話だ。
…………それにしても。)
なあ。なにさっきからソワソワしてんだ……?
(考え事してたとはいえ見てるこっちも落ち着かなくなる東の動きに思わず顔を顰めた。)
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