名無しさん 2024-03-01 20:42:27 |
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毎度変わらない時間と場所、そしてメンツ。彼が新卒と呼ばれる時期から通い詰めていた馴染みの純喫茶だと聞いたのはいつだったか。コロコロと流行や街並みが変わる中で取り残されたように姿も中身も変わらない場所があると気づき、好奇心から訪れたのが1年前。記憶の中にある景色と実際の外観を比べながら、飽きるまで眺めては帰る日々。変質者として通報されてもおかしくない行動を取る自分に、彼が声をかけてきたのが約10ヶ月前。いつも中に入らずに帰っていく姿にもどかしさを覚えて、ついに声をかけてみたのだと言う。その2ヶ月間ずっと彼を見ていたため、彼の人となりや優しさは大体把握している。いずれ彼の方から接触してくれると考えてはいたが、些か予想より早い展開に思わず笑ってしまったのを覚えている。あの日から、1人分のコーヒーが置かれた隅のテーブル席で語り合うことが日常になった。まるで小さな逢瀬みたいだと言ったのは彼だったか、自分だったか。実際、誰にも気づかれないようにテーブル下で足や指を絡め合っていたのだから、逢瀬だったのかもしれない。しかし、そんな淡く甘い日々は続かないもので。彼から『ずっとそばにいて欲しい』と正式なプロポーズを受けたのが約半月前。繁忙期から脱した彼から"お誘い"があり、こうして深夜のコンビニに2人で訪れたわけで。要り用のものを買い終え、こちらへ向かってくる彼を見て思う。あぁ、この1年間大事に大事に温めてきた願いが漸く叶うのだと。久々の感覚に我慢なぞできる筈もなく。甘い声で"おねだり"をすれば、優しい彼は大人しく路地裏まで手を引いてくれる。絡めていた指を焦らすようにゆっくり解き彼の頬へ両手を滑らせれば、あの日と同じ劣情の滲んだ瞳を捉えて。警戒心が最も緩むこの瞬間をどれほど待ち望んでいたことか。息も荒く重ねた手の上から剥がそうとする彼を制し耳元で甘く低く囁くと次第に力が緩んでいき。ややあって両腕はだらんと垂れ、焦点の合わない目で譫言を吐き続ける廃人が完成して。流涎の止まらない口からは『の、のぞ…の、のぞみ…どこ……のぞみ』と死に別れた元妻の名前が呪詛のように吐き出されている。何とも滑稽で愛らしい姿に、とうとう我慢が限界に達する。
「私はここにいますよ、貴方。さぁ、こっちへいらして…?ずぅっと、一緒に暮らしましょうね……ふふ、それじゃあ…いただきまぁす」
適当に譫言の相槌を打ってやりながら、目の前の命へ感謝の言葉を一つ。節榑立った指に歯を立てると、パキッという心地よい音とともに口内へ生暖かい液が流れ込む。この1年間、悉に悩みや相談事を聞いていたことが功を奏したのか、肉の酸味も強すぎず、脂も仄かに甘くて美味しい。嫌煙家でアルコールに弱く、ストレス発散は運動のみ…という健康的な生活を送り続けてくれたことも影響しているのだろう。筋肉も臓器もぷりんとした程よい弾力で、噛めば噛むほど味が染み出してくる。ストレスを溜めやすい年齢層や責任の強い立場であると聞いていたが、諸々を感じさせない旨味に目をつけて正解だったとある種の満足感すら覚え。堪らず糸を解きながら口をぐぱっと大きく開き、程よく焼けた肌に舌を這わせる。あたりをつけた場所を口に含めば、大きな歯形とともに身体が崩れ。あっという間に小さくなっていく彼に、楽しみが消費されていくような一種の寂しさを覚えて。じゅる、じゅると温い体液を啜りながら咀嚼すれば、ぐちゅりと鈍く湿った音が路地裏に響く。何処か煽情的な色を含んだ音に高揚感が首を擡げ。彼の苦しげな吐息と譫言が耳に入らない程に我を忘れて齧りつき、暫く食べ進めた頃、漸くトリップしかけていた意識が現実を認知し始める。自分と彼以外の荒い息遣いと焼けそうなほど強い視線に、くるりとそちらへ身体を向ければ、じっとこちらを見つめる人物と視線が絡み合い。刹那、"目が合った"と認識する。嫌悪や恐怖ではない好奇心というポジティブな内容を孕んだ視線に晒され、新しい玩具を見つけたように心がそわりと沸き立つのを感じて。見るからに食事の対象外ではあるが、あの可哀想で面白い人間に近づきたい。あわよくば、この食事を間近で見た反応も知りたい。思い立ったが吉日。どうやら今すぐに逃げ出しそうにない彼の様子に、悪戯心と好奇心を引っ提げ彼の元までゆっくりと歩みを進めて。ずる、ずると湿り気を含んだ重たい音を響かせながら胸元から上のない肉塊を連れ、自動販売機3台分ほどのところでピタリと止まる。元はガタイのよい男だったモノを運んだためか、腕が僅かに悲鳴を上げるのを感じて。小さな不快感に、舌打ちこそはでないも思わず表情が翳るのは許してほしい。ドサッと地面に腰を据え、小脇には1番の楽しみである頭を抱えて両手で大切に抱えるように肉塊を持ち直し。口を大きく開けたところで、ふと何とかして彼の反応を引き出してやろうと悪戯心が顔を覗かせる。いきなり肉片を投げつけて逃げられるのもつまらないため、まずは食事をよーく見せてやろうと思い立ち。手始めに彼の警戒心を解くため、それはそれは優しく、赤子を愛でるかのような……まぁ、赤子を産んだどころか、まじまじと見たことすらないためイマジナリー赤子を頭の中に緊急配備したわけだが。そして、頭にこさえてまで想像した赤子はそれほど可愛くなかった。兎も角、恐らく慈愛の籠った柔らかい笑みを向けて。一呼吸置いて部位を1つ1つ見せつけるように掲げてから、わざとらしくゆっくりと口に含む。その拍子に暗赤色の血液が這うように腕を流れ、見せつけるように舌を伸ばして舐めとってみせて。
「ん…あぁ、溢れちゃった。もったいなぁい……ねぇ、そこのお兄さんも一緒にどう?」
ちゅるり、と素麺のように腸を啜りながら、彼の方へちょいちょいと小さく手招きをして。彼の動向を舐めとるようにじぃっとみつめて。
(/最高なロルありがとうございますッ…!ちょっと盛り盛り欲張りセットにし過ぎて長くなってしまいました……お手隙の時にでものんびり読んでくださいまし…)
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