匿名さん 2024-01-09 18:15:09 |
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カイト、All
「……そうか。気が利くな。」
静かにそう呟くと、彼は差し出された缶コーヒーを一瞥したあと、軽く頷いて受け取る。缶を持つ指先は、火傷一つない滑らかな肌。それは黄金の炎を操る者とは思えぬほど、冷たい風のように静かだった。
「ありがたく、もらっておく。」
パシュッと小さな音を立てて缶を開けると、一瞬だけ鼻先を通り抜ける香ばしい香りに目を細める。ほとんど感情を表に出さないはずの彼が、わずかに唇の端を持ち上げたように見えた。それは笑みとは呼べない、けれどどこか温かさを含んだ表情だった。
「……こうして、屋上で空を眺めながら、缶コーヒーを飲む。まるで日常の中の非日常、ってやつだな。」
手にした缶を口元に運び、一口。ゴクリと喉を鳴らしたあと、静かに息を吐く。
「熱さも、苦味も……生きてるって実感させられる。皮肉なもんだ。戦いの中よりも、こういう瞬間の方が、よっぽど実感できる。」
一度目を伏せ、そして再び見上げた空は夕焼けの色に染まりつつあった。
「……燃え跡、変換できなかったって言ってたな。能力ってのは、本質が見えなければ真似も解析もできない。……もし、あれが“ただの火”じゃないとしたら――お前が変換できないのも、無理はないかもしれないな。」
静かに呟きながら、彼は手にした缶をもう一度持ち上げた。
「……ま、別に謎を解くために動いてるわけじゃない。俺は俺のやるべきことをやるだけだ。」
そう言った彼の横顔には、翳りと決意の両方が宿っていた。
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